長崎大学 国際学術雑誌『平和と核軍縮』
Taylor & Francis出版

Journal for
Peace and Nuclear
Disarmament
(J-PAND)
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第6巻2号(2023年12月発行)
特集:グローバル核政治における「不可逆性」の問題(パートI)
 
※ 目次と記事の原文は こちら から

目次と抄録

  • グローバル核政治における「不可逆性」の問題(パートI)
  • 特集序文:グローバル核政治における「不可逆性」問題にどうアプローチするか

    ハッサン・エルバフティミー

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    抄録

     核軍縮・軍備管理分野の研究で「不可逆性」の問題への関心が高まっているが、依然として未開拓の概念にとどまっている。より深堀りしてみれば、「不可逆性」は概念的にも実証的にも解明が必要な概念であることがわかる。グローバル核政治という状況において、不可逆性の問題に対して、いかに意義ある形で、いかに生産的な形で対処することができるだろうか? 不可逆性の問題は先送りにし、軍縮が達成されてからあらためて考えてみることにすればよいだろうか? これらの問いは、不可逆性という言葉で何を意味しているのか追求することの重要性を指し示している。本稿は、なぜ不可逆性を問うべきなのかについて検討することからまずは始める。そのうえで、軍縮や軍備管理をめぐる政治の中で不可逆性をいかに利用できるのかについて検討する。そうすることで、不可逆性がさまざまなアクターにとってしばしば別のことを意味し、時には対立する内容すら含んでいることを示唆する。本稿の大部分は、いかに不可逆性概念を定義するかに着目し、概念の取りうる幅について提案する。最後に、特別号の各論文について概観する。

  • 不可逆性と核軍縮:核兵器複合体の解体について

    ニック・リッチー

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    抄録

     本稿は、科学技術社会論(STS)の枠組みに依拠して、「不可逆な核軍縮」について検討する枠組みを発展させることをめざすものである。核軍縮の不可逆性を最大化するには、大規模な社会技術的システムとして理解される核兵器複合体を「解体」する必要がある。これには、物質や能力、意味、制度などから成るシステムのネットワークの停止あるいは解体、暗黙知の溶解、核兵器に関する認識枠組みの変容、これらの停止を管理するあらたなガバナンスのプロセスが伴う。本稿はこの枠組みを、冷戦後米国の核兵器複合体の経験に応用し、確立された核保有国の兵器複合体をいかにして解体可能かを検討する。

  • 不可逆性のパラドクス:軍備管理と軍縮はいかに永続化できるか

    ジョセフ・ロジャーズ、ヘザー・ウィリアムズ

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    抄録

     不可逆性の原則は軍備管理にとってのパラドックスを提示している。交渉者らはかたや、核軍備管理における進展を永続的なものにし、合意を長期にわたって強固なものにしようとする。特定の型の兵器の解体や、兵器級核分裂性物質の廃棄がこれに含まれることもある。同時に、政策決定者は、核軍備管理協定が(とりわけ立法府の同意を必要とする場合は)国内の利害関係者にとって受け入れ可能なものにし、安全保障環境の変化に対する柔軟な対応の余地を残そうとする。このため、条約にはしばしば脱退条項が盛り込まれ、条約から脱退して、条約参加による利得や条約の根底にある意図をひっくり返すことのできるオプションが当事者に与えられることになる。コーとヴェインマンはこれと同じようなことを「透明性・安全トレードオフ」に関して述べている。彼らによれば、「当事者の片方が合意を遵守できるようにするために十分に透明性を高めた取決めは、当事者間のパワーバランスを変容させて、他の当事者がこれを悪用して取決めから撤退するように向かわせることがある」。本稿は、不可逆性を確実にするような政治的、法的、技術的措置(検証や透明性向上措置を含む)と、柔軟性の要素を合意中に取り込んで結果的にそれを可逆的なものにするように諸国に動機づける安全保障上の懸念との間には、それと同じようなトレードオフの関係があると論じる。

  • 軍縮された世界における核兵器生産複合体

    ハッサン・エルバフティミー、ロス・ピール

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    抄録

     効果的な核軍縮体制というものはすべからく、核兵器の生産・維持を支えるインフラの問題に対処せねばならない。こうしたインフラそのものの中に、再軍備の種が宿っているからだ。本稿は、軍備を解体し、軍備を解体し終わった世界における核兵器生産複合体内部における施設に適用すべき行動の枠組みを提示する。この枠組みには2つの軸がある。第一は、単純な核分裂兵器とより高度なブースト型兵器・水爆の生産に不可欠な主要能力・施設を確定することだ。第二に、将来的な核兵器の再取得能力に直接・間接の影響を与える核兵器生産インフラを抑制するために取りうるさまざまな措置について検討することだ。これらのテーマを追求することで、本稿は、再核保有を可能とするうえでカギを握る核施設やプロセスとは何かを考える。また、これら施設の再稼働能力を抑制するのに必要だと考えられる措置は何だろうか? 軍縮の不可逆性の程度をいかにして高めるかを考えるには、核兵器のみならず、核兵器複合体の運営に関する難しい問いを提示し、それに答えることが必要となってくるのである。

  • 不可逆な核軍縮を支える検証の役割

    アルベルト・ムティ、グラント・クリストファー、ノエル・スコット

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    抄録

     検証と不可逆性との間のつながりはあまりよく理解されてない。我々は、検証と不可逆性との間には深いつながりがあり、相互に支えあうものだと論じる。そのために、軍縮プロセスの段階ごとの措置について概観し、これら措置が単体で、さらには総体としていかに不可逆性の強化に貢献するか、それぞれが検証によっていかに影響を受けるのかを検討する。そのうえで、とりわけ不可逆性に関連した検証プロセスの性質を確定すべく、検証概念を再検討する。不可逆性がいかにして実践的に応用可能なのか、この問題を前進させるさらなる問いは何かを提示して、我々の結論とする。

  • 核軍縮の不可逆性に関する法的考察

    トーマス・ハイノツィ

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    抄録

     非核兵器世界の共通目標の中に不可逆性の要素は常に含まれてきたが、この用語自体が軍縮関連の重要文書で一貫して使われてきたわけではない。本稿は、核軍縮の不可逆性に関する法的考察を行うものである。条約を基盤とした現在の取決め、進化する核兵器禁止規範、保障措置がいかにして高次の不可逆性に貢献しうるかを示す。ある条約の下では条約からの脱退が難しくなってものの、条約脱退の可能性はあり、条約違反の危険性もある。これらは不可逆性に難題をもたらしている。国際社会による強い制裁のみが、こうした行動を犠牲が多いだけで魅力に欠けるものとすることができ、可逆的な核軍縮の可能性を最小化することができる。

  • 書評:リサ・ランドン・コック著『核の決定:核開発の方向性はいかにして変更されるのか』

    クリストファー・ワターソン

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  • その他
  • バイデン政権の「核態勢見直し」:分析と評価

    黒澤満

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    抄録

     バイデン政権による「核態勢見直し」(NPR)が2022年10月に発表された。その焦点は何であり、いかに評価することができるであろうか? 過去の政権のNPRとはどう違っているか? 今次のNPRはバイデンのかつての発言を反映したものになっているか? 本稿は、NPRに盛り込まれている、国際的な安全保障環境、脅威認識、核抑止、宣言政策、軍備管理、核能力といった喫緊の課題について紹介し検討する。分析は、軍事と外交の二つの視点から行う。というのも、NPRが「外交優先」を強調しているからだ。核兵器の主要な役割として核抑止力を強化し近代化するというNPRの軍事的側面も強調されている。他方で、NPRの外交的側面はきわめて表面的にしか取り扱われておらず、積極的な提案を盛り込んでいない。今後のNPRは軍事的、外交的立場を平等に盛り込んだものでなくてはならないだろう。

  • 変容する北東アジアの安全保障環境と日本の核政策

    西田充

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    抄録

     4本の柱から成り立っている日本の核政策の基本枠組みは、核不拡散条約(NPT)が署名開放された1968年の直前に確立された。それ以降、中国・北朝鮮・ロシアという、現状を武力によって変更することをいとわない核保有3カ国に囲まれた近代日本の安全保障環境は、より厳しいものになってきた。2022年12月に発表された日本のあらたな「国家安全保障戦略」は、「日本の安全保障環境は、第二次世界大戦終結以来、もっとも厳しく複雑なものになっている」との認識を示す。この厳しい安全保障環境にもかかわらず、日本の核政策の基本枠組みには重要な変化の兆しが見られない。しかし、日本の安全保障コミュニティでは、中国との間で打撃能力の格差が生まれる中、それを核兵器によって埋めるべきであり、日本は米国との核運用面での統合を促進すべきであり、日本の安全保障政策は核兵器への依存度を高めるべきだとの議論が強まっている。しかし、これは日本の現在の核軍縮政策と抵触する可能性が高い。他方で、反撃能力の展開によって打撃能力ギャップを埋める努力がなされない限り、上述した基本枠組みに変化は見られることはないだろう。そのような政策決定は、それが安全保障のジレンマを引き起こすことなく、地域において軍事紛争のリスクを高めないような形で、バランスよくなされる必要がある。そのような場合、核兵器使用のリスクへのエスカレーションの可能性も排除することができない。

  • パワーを持たない者のパワー:核兵器禁止条約の教訓と外交実践をめぐる省察

    エレイン・ホワイト

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    抄録

     核兵器禁止条約(TPNW)の交渉は、核軍縮の歴史における一里塚であり、グローバルな政治行動を取るうえで「パワーを持たない者のパワー」を示す好例となった。本稿は、コスタリカの女性外交官として2017年の歴史的なTPNW交渉の議長を務めた筆者が、中小国や市民社会、科学者、学者、核実験・開発に影響を受けた地域が、この長年のグローバルな問題に対してあらたな解決策を導く上でどのような役割を果たしたのかを検討するものである。既存のグローバルシステムにおいてこれらのアクターの役割は小さいと見られてきたが、実際にはグローバル過程において肝要な役割を果たしている。「パワーを持たない者のパワー」の発揮は、この考え方を発展させる上での貢献を果たしてきた初期の指導者や国々、それに、長期にわたって社会や国際システムを変容させてきた社会運動の遺産という文脈の下でなされている。リーダーシップとエージェンシー、革新的プロセスの概念と実践は、複合する危機と、多面的な社会・環境・技術の移行が進行する現在の歴史的瞬間にあって、あらたなパラダイムと基本原則を国際社会が模索する助けとなるかもしれない。本稿は、TPNW交渉の経験を下敷きにして、こうした観点からの考察を行うことを目標とする。

  • 危機の時代における核脅威の低減

    アレクサンダー・クメント

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    抄録

     主要軍事大国が支配している安全保障政策の言説では、世界の多数を占める非核国の観点はしばしば顧みられることがない。現在の高いレベルの核リスクに加えて、対処が難しい核兵器の現状にかんがみて、世界の多数を占める非核国は核兵器禁止条約(TPNW)をつうじてひとつのパラダイム・シフトを求めているのである。核抑止をめぐる議論が真正なものであるかを真剣に再検討し、核兵器が人間に与える帰結とリスクに関連して実証的な根拠でもってこうした議論を行うことがここには含まれるだろう。核抑止は失敗に終わる可能性もあり、証明することが困難な多くの前提の上に成り立っていることを考えあわせるならば、核兵器に関連した政策決定は、核兵器が人間に与える壊滅的な帰結と、その結果としてもたらされる、すべての人々の安全にとっての高いリスクに関して提示されている実証的な事実を基礎としたものでなくてはならない。さらに、法、倫理、正統性、国家間と世代間の正義をめぐる問題がさらに詳しく検討されねばならない。これらすべての側面がTPNWの背景にあり、多数を占める非核国の安全保障上の正当な懸念を映し出したものである。核のリスクが高まっているこのときにあって、国際社会の取組みは、核兵器の使用や使用の威嚇、核による恫喝に対する忌避感を強めることと、核のリスクを全体として減ずる活動とに焦点を当てねばならない。そしてこのことは、核軍縮・核不拡散体制への再度のコミットメントと、核兵器なき世界という目標と結びつけられねばならない。

  • 【ワークショップ報告】21世紀における核軍縮の「社会的検証」

    サラ・アルサイード、アレクサンダー・グレイサー、ジア・ミアン

    原文へ

    抄録

     科学者を含めた市民や市民団体が、国家レベルや国際機関レベルでのメカニズムを補完する形で、核兵器を削減し禁止する諸条約を締約国が遵守しているかどうか監視・検証するという考え方は、これまで繰り返し提示されてきた。核をめぐる政治やアイデンティティ、国家・社会関係、コミュニケーションや集合的行動の可能性など、その時々の歴史的な瞬間が、それぞれの局面の背景にはある。プリンストン大学「科学国際安全保障プログラム」が2023年に開催したこのワークショップでは、核兵器体系の監視・検証に関連した現在の市民社会の実践について追求した。インターネットの普及、オンライン上で公に利用可能なデータやツールの存在、モバイルカメラから商業衛星に到る安価なセンシング技術の普及といった状況が背景にある。そのような「社会的検証」の取り組みの可能性と限界を検討するためにこのワークショップは開かれた。ワークショップは次の3つの大きなテーマを掲げた。①市民社会が核活動の監視・検証を行う背景となる社会・技術・市場・国家の現状、②国家や国家間での権力や関連資源の不均等でヒエラルキー的な配分が、各国やグローバルなレベルでの議論や意思決定に対して市民社会が成しうる貢献をどの程度可能にし、それを形成あるいは制限するか、③市民社会による核活動の監視・検証活動やその成果の信頼性を評価する基準、及び、(データやプロセス、組織に対する)信頼性とバランスの取れた実践との間の関係性。

  • 書評
  • 書評:ロバート・ジェイコブズ著『核の身体:グローバル・ヒバクシャ』

    ソナリ・フリア

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編集体制

編集長
  • 吉田文彦(長崎大学、RECNAセンター長)
編集長補佐
  • 山口響(長崎大学、特定准教授)
副編集長
  • 鈴木達治郎(長崎大学、RECNA副センター長)
  • 河合公明(長崎大学、RECNA副センター長)
  • 中村桂子(長崎大学、RECNA准教授)
編集委員
  • 藤原帰一(千葉大学)
  • 西崎文子(東京大学名誉教授)
  • 目加田説子(中央大学)
  • ピーター・ヘイズ(ノーチラス研究所、米国)
  • M・V・ラマナ(ブリティッシュ・コロンビア大学、カナダ)
  • ジャック・ハイマンズ(南カリフォルニア大学、米国)
  • ランディ・ライデル(元国連高官、米国)
  • レベッカ・ジョンソン(アクロニム研究所、英国)
  • イム・マンスン(韓国高等科学技術院[KAIST])
  • 趙通[ショウ・ツウ](カーネギー国際平和財団[北京])
  • ニック・リッチー(ヨーク大学、英国)
アドバイザー
  • セルジオ・ドゥアルテ(パグウォッシュ会議、ブラジル)
  • フランク・フォンヒッペル(プリンストン大学、米国)
  • ジア・ミアン(プリンストン大学、米国)
  • ジョージ・パーコビッチ(カーネギー国際平和財団、米国)
  • アリソン・マクファーレン(ブリティッシュ・コロンビア大学、カナダ)
  • ゲーツ・ノイネック(ドイツ科学者連盟)
  • アレクセイ・アルバトフ(世界経済国際関係研究所、ロシア)
  • ケビン・クレメンツ(戸田記念国際平和研究所)
  • ジャルガルサイハン・エンクサイハン(元国連大使、モンゴル)
  • 沈丁立[シェン・ディンリ](復旦大学、中国)
  • 文正仁[ムン・ジョンイン](延世大学、韓国)
  • 黒澤満(大阪大学名誉教授)