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第3巻2号(2020年12月発行)

  • 核不拡散条約(NPT)発効50年
  • 責任の伴った安定性:NPTの抱える困難な目標

    ポール・メイヤー

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    抄録

     「責任の伴った安定性」というスローガンは、1995年の核不拡散条約再検討・延長会議で、その会議の結果を特徴づけるフレーズとして登場した。会議では、条約が無期限に延長され、条約の条項履行に向けた責任を確保する手段が強化された。あれから25年、このスローガンの有効性は疑問に付されている。NPT加盟の非核保有国は、5つの核兵器国に対して、核軍縮義務の履行状況についてNPT加盟国により前向きに報告するように求めているが、成果を上げていない。標準報告形式に関する合意や、履行状況報告の定期的な提出といった穏健な目標ですら、果たされていない。詳細かつ比較可能なデータがない中で、NPT加盟国はいかにして核保有国に効果的に責任を取らせることができるか? 次回の再検討会議に向けて、NPTに対する別の圧力が強まる中、説明責任の前提条件としてより高い透明性を求める声に応えることができないならば、NPTに残された権威すら奪い取られることになるかもしれない。

  • NPT50周年:その光と影

    阿部信泰

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    抄録

     核不拡散条約(NPT)は、1970年の発効時点で次に核兵器を持つのではないかと考えられた国々への核拡散を予防するという所期の目的には達した。かつてジョン・F・ケネディ大統領が予想したように、核保有国が10、20、25と広がっていくことは食い止められた。これは、核兵器を取得しないとNPTの下で誓約した国々で核活動を監視する国際原子力機関(IAEA)の包括的保障措置体制の確立によって下支えされた。NPTは、長年にわたって、「第二列」の国々を加盟させることに成功し、ほぼ普遍的な加盟を実現してきた。米国による強力な外交努力、その後の冷戦終結までの努力が、これを支えた。しかし、この30年間は、NPTがその限界を見せ始めた時期であった。秘密裏の核計画がイラクやリビア、南アフリカで進行した。その期間を通じて、IAEAの保障措置が核兵器計画を速やかに発見する能力の不在が明らかになった。核軍縮促進の分野では、NPTは成功してきたとはいえない。発効から50年が経っても、条約第6条に盛り込まれた目標の達成には程遠い。他方で、IAEAの支援によって、過去50年で核エネルギーの平和利用は活発になってきた。

  • 核兵器禁止条約:第1回締約国会議へ向けて
  • 核兵器禁止条約第1回締約国会議:何を議論すべきか?

    ケネディ・グラハム

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    抄録

     核兵器禁止条約は、現代の最も重要な展開のひとつである。本稿は、50カ国の批准を得て条約が発効してから1年後に開催される第1回締約国会議において、どのようなことが議題にされるべきかについて論じる。まとめると、次の4つの議題になる。①短期的にみた条約の法的地位、②ロジックの問題:核兵器禁止の不可逆性と脱退の権利、③長期的にみた条約の法的地位、④条約をめぐる政治的分断と法:頑固な反対者をめぐるルールについて、である。不可逆性と普遍性という、条約にとっての2つの中核的な概念に関連して、条約そのものについて適切な時にさらなる政治的イニシアチブが発揮される余地が存在する。そうしたイニシアチブは、慣習国際法の現在のあり方に関する評価から生まれてくる。また、核兵器を含めたすべての大量破壊兵器を保有してはならないという規範が、今後強行規範の地位を獲得するのか、あるいはそうした可能性があるのか、ということも、そうしたイニシアチブの登場のカギを握る。非締約国に条約入りするよう促すことを通じて条約の普遍化を図るために、条約における拘束力のある条項に従いつつ、そのようなイニシアチブが生まれるかどうかは批准国次第だ。そうしたイニシアチブは、多国間のルールを基盤とした秩序の強化に寄与することであろう。

  • 義務から行動へ:核兵器禁止条約第1回締約国会議における被害者救済と環境回復の問題

    ボニー・ドチャーティー

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    抄録

     核兵器禁止条約(TPNW)の発効が近づく中、第1回締約国会議に向けた準備を始める時期が来た。「核兵器が人間に与える壊滅的な帰結」を廃絶するというTPNWの目標に導かれて、第1回締約国会議では、将来の核使用を防ぐという目的だけではなく、過去の核使用と核実験による被害に対応する積極的な義務についても、話し合われなければならない。本稿は、被害者救済や環境回復、国際協力・支援に関するTPNWの条項を行動に変えるための締約国会議の役割について検討する。具体的には、第1回締約国会議の重要性に着目し、効果的な構造を提案し、議論及び成果文書の実質的内容について検討を加える。これらすべての領域において、第1回締約国会議は人道的軍縮の先例に学び、それを核兵器分野に応用することができよう。積極的な義務を長期的な目標に据え、そのインパクトを最大化する枠組みを作ることで、第1回締約国会議は、TPNWのもつ人道的な目的を完全に実現する道を切り開くことができるだろう。

  • 核兵器禁止条約における被害者救済条項

    ニディ・シン

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    抄録

     本稿は、核兵器禁止条約(TPNW)における被害者救済条項を分析することを目的とする。とりわけ、支援を提供すべき加盟国(被害国、使用国、その他の国々)の積極的義務の性質と範囲について検討を加える。分析を通じて、TPNWがその形式において人道的軍縮をめぐる以前の諸条約をどう乗り越えているか、どの分野において被害者救済の規範的枠組みの範囲を狭めているのかを検討する。本稿はまた、年齢やジェンダーに配慮したアプローチを盛り込み、先住民族の権利を擁護し、国際人道法と国際人権法の原則を適用するなど、条約の人道主義的な目標を満たす上で有益な被害者救済の特定の側面について検証する。使用国に対する前例のない義務を導入し、より強力な履行と透明性向上に関する措置をめざした将来的な改革の可能性を盛り込むことで、TPNWが被害者救済条項の発展にどう寄与しているのかに注目する。

  • その他
  • 米国による「核軍縮に向けた環境づくり」イニシアチブ

    黒澤満

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    抄録

     本稿の目的は、米国が2018年に新たに始めた「核軍縮に向けた環境づくり」(CEND)イニシアチブについて検討し、批判的に評価することにある。CENDの主な主張は、核軍縮を達成するには、地政学的な視点を考慮に入れながら、国際的な安全保障環境を改善する必要があるというものである。本稿の問いは「CENDは核軍縮促進に有益か、あるいは、核軍縮に取り組まない口実を与えるものか?」というものだ。本稿は第一に、CENDの内容及び意図を明確かつ詳細に把握するために、米国の提案を検討し、このイニシアチブに対する賛否を理解するために、2019年のNPT再検討会議準備委員会会合での議論を検討する。本稿の第4節は、次の4つの基準を念頭に、CENDの議論を詳細に分析する。すなわち、①核軍縮と安全保障の関係、②核軍縮と核不拡散の関係、③「ステップ・バイ・ステップ」アプローチの放棄、④過去のNPT再検討会議における誓約の放棄、の4つである。第5節は専門家によるCENDの評価を取り上げる。最後に、本稿としてのCENDに対する批判的な分析を行い、核軍縮と安全保障を同時に追求することを推奨する。

  • 日本の世論、政治的説得、核兵器禁止条約

    ジョナサン・バロン、レベッカ・ギボンズ、スティーブン・ハーツォグ

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    抄録

     核兵器禁止条約は数十年に及ぶ日本の核政策に対する挑戦である。日本は第二次世界大戦終結以来、米国の核の傘に依存してきたが、被爆者を含めた数多くの軍縮推進勢力が日本政府に同条約への加盟を訴えてきた。我々は、日本で実施した新たな全国世論調査(N=1,333)によって、こうした論議への貢献を図る。調査が示していることは、首相が条約に署名し国会が条約を批准することを支持する意見は、日本の世論のおよそ75%に達するということである。反対はわずか17.7%、「わからない」は7.3%であった。さらに、この支持は、あらゆる集団の中に広範に存在する。もっとも印象的なのは、埋め込み調査の実験によって、日本政府が政策的な議論や社会的な圧力を通じて世論を条約反対の方向に導くのは不可能との結果が出たことである。核兵器禁止条約へのそうした広範な支持は、日本政府がもはや条約から逃げ隠れすることは不可能であり、核軍縮のリーダーとしての信頼性を取り戻す行動を取らなくてはならない、ということを示している。

  • 台湾海峡における核兵器・その1

    グレゴリー・カラーキー

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    抄録

     1954年秋に始まり1958年秋に終わった台湾海峡危機の間、米国のドワイト・アイゼンハワー大統領は、中華民国(台湾)を防衛するために中華人民共和国に対して核兵器を使用することを検討していた。本稿は、中国やソ連のアーカイブからの資料を新たに加えて、米国による中国への核兵器使用の威嚇は、軍事的なエスカレーションを防ぐために必要でもなかったし、中国の指導者がその目標を追求することを妨げる上で効果的でもなかったということを証明する。本稿では、台湾海峡危機を第1次と第2次に分けるのではなく、その間になされた米中協議を、初期及び後期の軍事活動とつなげて検討する。米中協議を検討対象に含めることで、米国による核兵器使用の最大の危機は、アイゼンハワーが危機の原因を理解する前の段階の1955年春に訪れたことが判明する。また、(1958年の第二の軍事活動期に撤回した)核兵器使用の準備ではなく、中国と交渉しようとするアイゼンハワーの意思こそが、軍事的なエスカレーションを防ぎ危機を解決に導いたものであることを本稿は示す。

  • 台湾海峡における核兵器・その2

    グレゴリー・カラーキー

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    抄録

     1954年秋に始まり1958年秋に終わった台湾海峡危機の間、米国のドワイト・アイゼンハワー大統領は、中華民国(台湾)を防衛するために中華人民共和国に対して核兵器を使用することを検討していた。本稿は、中国やソ連のアーカイブからの資料を新たに加えて、米国による中国への核兵器使用の威嚇は、軍事的なエスカレーションを防ぐために必要でもなかったし、中国の指導者がその目標を追求することを妨げる上で効果的でもなかったということを証明する。本稿では、台湾海峡危機を第1次と第2次に分けるのではなく、その間になされた米中協議を、初期及び後期の軍事活動とつなげて検討する。米中協議を検討対象に含めることで、米国による核兵器使用の最大の危機は、アイゼンハワーが危機の原因を理解する前の段階の1955年春に訪れたことが判明する。また、(1958年の第二の軍事活動期に撤回した)核兵器使用の準備ではなく、中国と交渉しようとするアイゼンハワーの意思こそが、軍事的なエスカレーションを防ぎ危機を解決に導いたものであることを本稿は示す。

  • 心を開く――北東アジアにおける信用・信頼・安全保障構築

    ヒュー・ミアル、柴田理愛

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    抄録

     東アジアの平和は1979年以来つづいてきたが、この地域や世界全体での各国の角逐や、歴史問題をめぐる未解決の不満、あらたな核兵器の存在によって、平和が継続できるかどうか危うくなってきている。こうしたリスクを減じるためには、信頼醸成措置や危機管理のメカニズムが必要だ。北東アジアの国々は、互いに強い不信感を持っている現状の中で、いかにしてそうした措置を講じることができるのだろうか。信頼醸成措置をまず行うべきなのか、それとも信用をまず作り上げてから、そうした取り組みに進むべきなのか。
     本稿は、信用に関する学術的な議論を、「信用構築者」の役割に注目しながら検討する。「信用構築者」とは、新たな関係を築くことに対して心を開く存在のことである。不信を取り除くために、5つのステップを想定する。第一に、共通の安全保障上のジレンマを認識することで「敵」のイメージを払しょくする。第二に、変化を導きたいとの意思を示す。第三に、それへの応答がなかった場合にもあきらめないこと。第四に、対話に入る。第五に、さらなる協力をもたらすステップを追求することである。
     このアプローチは、北東アジアにおける信用構築・信頼醸成・安全保障構築に応用できる。南北朝鮮間の信頼醸成に始まり、和平条約、非核兵器地帯、安全保障協力に関する取り決めへとつながるような見取り図をスケッチしてみたい。

  • 核不拡散体制の潤滑油――原子力供給国グループの政治経済学

    ジェイソン・エニア

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    抄録

     原子力供給国グループ(NSG)は、核不拡散体制の中でも重要なものであるが、あまり検討の対象とはされてこなかった。加盟国が1974年以来、自発的な制限に同意してきたことを考えるならば、NSGのルールは関連する当事者に何らかの利益を与えているものと考えられる。本稿は、政治経済学の観点から、「取引コスト」の概念を通じてこれらの利益について分析を加える。NSGのルールはいかにして、国際システムの協力と協調に伴う取引コストの問題を軽減するのか? これらのルールは、取引コストの変化に合わせながら、いかにして進化してきたのか? 本稿は、こうした問題に取り組むことを通じて、核不拡散体制の主要な制度のひとつとされるNSGを分析し、核不拡散体制の効力は単に核不拡散条約(NPT)を見るだけでは測れないという議論に資することをめざす。

  • 東西の分断線:どのようなテコが信頼を再構築できるか?

    ナジャ・ダグラス

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    抄録

     今後数年間、地域のいくつかの分断線が東西関係を特徴づけることになるだろう。とりわけバルト海地域において、NATOとロシアの双方がかなりの自信を失っており、どこかでその再構築が図られねばならないとみなされていることは明らかだ。今日の東西関係は、相互の認識、挑発、意図の解釈といったことが以前よりも問われるようになってきている。しかし、ほとんどの長期的な交渉の場は機能不全に陥っている。相手の意図を読み違えるリスクはきわめて大きいが、双方が関心をもつある一定の領域においては、信頼を再構築し、関係を立て直せる可能性がある。

  • 赤十字国際委員会による「ミレニアルが考える戦争と平和」調査――核兵器廃絶に向けた訴えかけに示唆するもの

    マグナス・ロボルド

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    抄録

     赤十字国際委員会(ICRC)が2020年に行った「ミレニアルが考える戦争と平和」調査は、ミレニアル世代の圧倒的多数が核兵器の使用には反対しているのに対して、核兵器の使用・開発・維持をめぐっては微妙な考え方を持っていることを示している。そこから、核兵器の禁止と廃絶に関する今後の訴えかけに関する重要な教訓を引き出すことができよう。とりわけ、調査の結果は、核兵器の使用・開発・維持に焦点を当てる戦略よりも、使用に焦点を当てる方が、より広範な支持を引き出しうることを示唆している。さらに、核兵器に反対する世論を動員しようとしている活動家や組織は、この問題が人々の命にどう関わるかを提示することに力を注ぐべきであることを示唆している。

  • 書評
  • ウルリッヒ・クーン『欧州における協調的軍備管理の盛衰』(ノモス、2020年)

    アレクサンダー・グラエフ

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  • ラミンダー・カウール『クダンクラム:印露合同の原子炉建設の物語』(オックスフォード大学出版、2020年)

    アチン・バナイク

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