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第5巻1号(2022年6月発行)

  • 中東非核・非大量破壊兵器地帯
  • 序文:中東非大量破壊兵器地帯への道

    エマド・キヤエイ

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    抄録

     中東における非大量破壊兵器地帯のアイディアは数十年の歴史をもつ。1990年にエジプトが提案しイランが支持した。こうした地帯は、中東及び北部アフリカのアラブ22カ国すべてにイランとイスラエルを加えた国々から、化学兵器・生物兵器・核兵器を排除することを目的としたものである。
     中東非大量破壊兵器地帯の実現は、この数十年、不安定と危険、WMD拡散に見舞われてきたこの地域にとってはきわめて重大な意味を持つ。地帯の目指すべきところは、これらの破壊的兵器を地域から除去することに限定されるべきではない。地帯創設を可能にする緊密な政治的雰囲気の醸成がそこには含まれることになるが、それにはこの分断された地域における集団的な協力の実現という類まれなる事態が訪れねばならない。このプロセスでは、地域の安全保障環境を改善し、社会経済的・政治的前進に向けた動きを阻害してきた地域国家間における敵意と誤解を完全に反転させることが必要となる。したがって、非大量破壊兵器地帯化は、不拡散の取り組みを強化するだけではなく、この地域が直面しているその他の安全保障関連の問題解決に向けた議論を不可避的に開いていくことにもなる。
     本特集は、中東内外における多様な声を盛り込んだ。活動家、実務家、政策決定者、現職・元職の外交官、政府関係者らが、中東非大量破壊兵器地帯化という数十年の歴史をもつ目標の達成に向けた歴史、今後の見通し、課題、ありうる実現策について論じる。

  • 達成可能な中東非大量破壊兵器地帯条約に向けて:市民社会の視点

    シャロン・ドレブ、レオナルド・バンダーラ

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    抄録

     中東における非大量破壊兵器地帯(WMDFZ)の創設は数十年来の取り組みである。WMDFZの創設は、国連やNPT再検討会議のような場において再三議論されてきた。本論文は、中東において実際に機能し、持続可能な条約の実現に向けたありうる道筋を探求することによって、このプロセスへの貢献をめざすものである。我々は、そうした条約は、過去の決議において諸国が定義してきたすべての点を網羅した法的拘束力のある一般文書を通じて実現可能だと論じる。我々は、こうした議論において交渉者らが直面することになるであろう中核的な要素に焦点を当てることで、そうした条約に向けたいくつかの要素について分析する。そのために、我々は、市民団体「中東条約機構」(METO)が外交官や専門家らと2014年以来組織してきた議論やラウンドテーブルを参照する。市民社会による議論は、包摂的なプロセスに対する意義ある貢献となり、市民社会が核不拡散・軍縮協議に対してなしうる貢献に関する今後の研究におけるケーススタディーを提供することにもなろう。

  • 注目されない問題:中東におけるミサイル規制

    ハッサン・エルバフティミー

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    抄録

     先進的な弾道・巡航ミサイルの存在が、中東の安全保障環境の顕著な特徴となっている。より多くの国が、以前よりも盛んにこれらのミサイルを自国開発あるいは輸入するようになり、地域紛争におけるミサイルの使用も頻繁になってきている。にもかかわらず、中東におけるミサイル問題は、地域の軍備管理において最も検討されていない問題のひとつである。本論文は、中東におけるミサイル問題の過去・現在と、軍備管理を目的とした地域的な論議の発展について検討を加えるものである。競争によって特徴づけられた地域の軍備開発のダイナミズムと、分断され発展を見せていない規範的な軍備管理枠組みとの間のつながりが弱いことを本稿では論証する。また、地域におけるミサイル規制問題に対処する際の課題を洗い出し、地域的なミサイル管理の実質及び内容を枠づける横断的なテーマを含め、ミサイル規制問題に対処するための態様の分類法を提案する。

  • 非核兵器地帯の安全保障:無条件の安全の保証にむけたテストケースとしての中東

    タルジャ・クロンバーグ

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    抄録

     諸国による自制と非核兵器地帯の推進を基盤とした公正な核秩序を形成するには、現在の核不拡散体制が提供するものよりも信頼性の高い消極的安全保証を必要とすることだろう。問題となるのは、いかにしてそのような変化に向けた必要条件を作りだすのか、という点にある。本稿では、非核兵器国に対して一般的に提示される消極的安全保証と、既存の非核兵器地帯に対して提示される特定の消極的安全保証の両方に検討を加える。これらは、提供されている安全保障を理解するために、それが付している条件やあいまいさの観点から分析される。これを基礎にして、非核兵器地帯の全ての構成国に対して集合的に与えられる無条件かつ法的拘束力のある消極的安全保証のオプションを検討する。こうした保証は、とりわけ、ひとつ以上の核保有国が存在するケースにおいては、非核兵器国及び非核兵器地帯の数を増やすツールとして機能させることが可能だろう。現在のところ、最も先鋭な問題は中東におけるそれである。中東問題で進展が見られないことは、NPTの再検討プロセスに影響を与え、何らかの積極的な措置が採られるまでは危機を深めることになるだろう。無条件かつ法的拘束力のある消極的安全保証に関する合意があれば、中東における非大量破壊兵器地帯化の中間的な第一段階となり、その参加国間の意見の不一致に関する議論を開始することが少なくとも可能になろう。ここでのモデルは、トラテロルコ条約によって開始されたブラジル・アルゼンチン間の敵対関係の変化である。

  • 中東・北部アフリカの地域的軍縮における化学兵器・生物兵器の問題

    ジャン=パスカル・ザンダース

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    抄録

     2019年11月、中東から非通常兵器――とりわけ核兵器、それより重要性は劣るが化学兵器・生物兵器も――を廃絶するための1週間の年次会合があらたに開始された。2018年12月22日に国連総会第一委員会にエジプトが出した提案が承認された結果である。この新会合は、1995年の核不拡散条約再検討会議で採択された「中東決議」で与えられた任務を基礎としている。非核兵器地帯という元々の構想を化学・生物兵器を含むものに拡張したことに加え、地域的な軍縮を検証可能にすることも含まれている。中東における地域的軍縮の範囲をこのように拡張したことで、協議当事者にとっての課題はより大きなものとなった。非核兵器地帯は基本的にイスラエルとの安全保障関係を問題とするものであるが、化学兵器と、中東での過去・現在におけるそれらの使用の問題は、中東におけるその他の対立点にも影響を与える。本稿では、化学・生物兵器問題が中東の非核兵器地帯化構想に挿入されることになった経緯を跡付ける。その上で、化学・生物兵器を規制する法的制度、中東におけるその地位、非通常兵器を廃絶する地域的地帯の問題に検討を加える。効果的な検証体制への要求は、化学・生物兵器の諸軍縮条約のプロセスの問題があって、より問題を複雑化している。本稿は最後に、上記の会合が、地域的な枠組みを議論しつつ信用と信頼の構築を検討するために採りうるステップについて考える。

  • IAEA総会における中東非大量破壊兵器地帯の扱い:IAEAの背後に「大戦略」はあるか

    ジャスミン・オーダ、トミーシャ・ビーノ

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    抄録

     一般的には、核不拡散条約の再検討会議が中東非核兵器地帯化を議論する主要な多国間フォーラムとみなされているが、同会議はこの問題を議題とする3つのその他の多国間フォーラムのひとつに過ぎない。しばしば無視されているのは、本稿において取り上げる国際原子力機関(IAEA)総会である。この総会には、「イスラエルの核能力」と題する決議と、「中東におけるIAEA保障措置の適用」と題する決議の2つが、ほぼ毎年のように提案されてきた。本稿は、アラブ連盟が、主要な地域的ダイナミズムや地域的展開の文脈において、地域的核拡散を予防し、「イスラエルの核能力」決議を通じてIAEA総会において既存の核拡散問題に対処するために採ってきた戦略の進化を記述し、それが中東非核兵器地帯化の追求に与えた影響を検討する。

  • 中東における核不拡散と軍縮

    ナビル・ファミー

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    抄録

     中東における核不拡散と核軍縮は、地域の安全及び安定の不可欠の条件である。核開発を防ごうとするならば、この問題に対処することがきわめて重大かつ緊急の意味合いを持つ。このことは、無差別的かつ包括的になされねばならない。イラン核合意に関する協議の再開を、中東非核兵器地帯化の方向に向けたひとつのステップとせねばならない。こうした地帯は、国際法を基礎とした軍縮と紛争解決という2つの本質的な柱を基盤とした中東のあらたな安全保障枠組みの根本的な要素となるものである。

  • 中東における非大量破壊兵器地帯の追求:歴史・教訓・将来

    ワエル・アルアサド

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    抄録

     中東非核兵器地帯化の提案が1974年に国連総会に出されてから約50年が経つ。アラブ諸国が外交的な取り組みを継続してきたにも関わらず、非核兵器地帯化は依然として協議以前の段階に縛り付けられた未実現の概念にとどまっており、「一歩進んで二歩下がる」状態にある。地帯化の歴史は、国際社会による約束違いの事例にまみれている。にもかかわらず、この数年間の展開は、地帯化の概念がいまだに生き続けていることを示している。本稿は、地帯化の歴史におけるいくつかの段階に焦点を当て、地帯化構想をめぐる誤った考え方を指摘し、構想の背後にある動機と理由について分析し、地帯の主唱者らがあらゆる関連する国際的な場においてなぜ地帯化を追求し続けているのかを考える。本稿はまた、地帯化の動乱に満ちた長い歴史において学ばれてきた教訓を引き出し、最終地点に向けて採るべきステップについて示唆する。こうした分析を通じて本稿は、これまでの研究において十分考慮されることのなかったアラブの視点を提供することを試みる。

  • その他
  • 軍備管理と運搬手段:課題と今後

    エマニュエル・メートル

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    抄録

     核軍備管理は多くの利害関係者にとって予見しうる将来における優先的な課題のひとつであり、主要な核兵器国の核弾頭数に制限をかけるための提案がなされてきた。しかし、運搬手段の問題は、不安定化と軍備管理のダイナミズムのまた別の要素である。大量破壊兵器が搭載されるのであれ、通常兵器のみを伴った使用が検討されるのであれ、ミサイルは、以前にもまして、移転され、生産され、近代化され、軍事紛争において使用されるようになってきている。攻撃的能力の開発はまた、防衛システムの増強を呼んで地域あるいは世界全体において負のスパイラルを生み出しかねず、それがまた攻撃的兵器を調達しようとのあらたな動きにつながってしまう。したがって、これら兵器システムの不安定化効果を制限する方途を検討しつづけることには意味がある。一国単独、あるいは二国間・多国間のフォーラムにおけるこうした制限のための法的枠組みは現存している。それらは、不拡散に焦点を当てていることもあるし、あるいは、より広い問題をカバーしていたり、これら運搬手段を取得しようとする国々の行動に対処したりするものであることもある。本稿では、これらの枠組みが、ミサイルに関する最近の動向とダイナミズムに対処すべくいかに進化を遂げることができるのかを論じる。と同時に、これらシステムの不安定化効果を減ずるために有益なあらたな方策、とりわけ信頼醸成措置について提起する。

  • 核兵器禁止条約の規定によるホスト国からの核兵器撤去期限の設定

    モリッツ・キュット、ジア・ミアン

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    抄録

     核兵器禁止条約は、他国の核兵器を受け入れている国が条約に加入しようとする場合に、「できる限り速やかに、遅くとも締約国の第一回会合が決定する期限までに、当該核兵器の速やかな撤去を確保する」ことを義務づけている。本稿は、この新条約の下における核兵器撤去期限の問題を論じる基礎を提供する。キューバ・西ドイツ・台湾・ハンガリー・韓国・ギリシャからの過去の核兵器撤去の事例について簡単にみたのち、現在の5つの核兵器ホスト国からの核兵器撤去の実行可能なプロセスについて概説する。これらの兵器はすべて米国が保有しているものであり、米国の現在の運送実務や能力を前提としている。本稿の分析によれば、核兵器禁止条約の締約国は、核兵器をホスト国から安全に撤去するために90日の期限があればよいことが示唆される。

  • 米拡大核抑止への日本の依存:核使用の合法性問題は今日でも意義を持つ

    河合公明

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    抄録

     日本はその安全保障政策において、米国の拡大核抑止が「不可欠」であると謳っている。しかし、政策決定者は、その合法性と核兵器使用の意味するところについて十分な説明を与えているようには思えない。国際法の観点からすれば、米国の拡大核抑止への日本の依存を検討するにあたって、3つの問いを提示することができる。第一に、想定される核兵器使用における標的は何かというものであり、これは政策決定者による核抑止の理解に関わる問いである。第二に、報復攻撃において民間人を標的とすることは認められるかどうか、という問題だ。この問題は、敵方の都市や民間人を標的とする対都市戦略の合法性と関連している。第三に、攻撃された国に代わる第三国による対抗措置は容認可能か、というものだ。この問題は、日本による米国の核能力への依存の法的基礎に関わっている。政治と法律の結節点にあるこれらの問いは、国会審議においても学術研究においても深く追及されたことがない。そこで本稿はこれらの問題に取り組み、米国の拡大核抑止に依存する日本の安全保障政策に内在している法的問題や含意について、検討を加えるものである。

  • 平和運動とウクライナ戦争:どこへ向かうのか?

    アンドリュー・リヒターマン

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    抄録

     大衆平和運動が不在の中、ウクライナ戦争の影の下で平和と核軍縮の仕事はどこへ向かうのだろうか? ロシアによるウクライナ侵攻は違法な戦争であり、強く非難されるべきだ。戦闘を終結させ、つづけて欧州における公正かつ包摂的な共通の安全保障枠組みを構築するための交渉が即時かつ無条件に開始されねばならない。すべての政府が自制心をもって交渉のテーブルにつき、世界を核戦争の淵から救い出す集団的な責任があることを認識しなくてはならない。しかし、大惨事が回避できたとしても、世界はすでに変わってしまっている。米国やその同盟国の為政者らは、「防衛費の増大を」「軍事力の増強を」という声に応答しつつある。世界の人々らは、どの国の政府とも連携していない平和運動とともに、この状況に対応していかねばならない。より公正で平和的、環境的に持続可能な生活様式をもとめる新たな運動の潮流をまとめあげていく道を見つけねばならない。その第一歩は、この時にあって、再来しつつある権威主義的なナショナリズムや軍拡競争、戦争の原因をさらに深く理解しようとすることにあるだろう。

  • 核兵器禁止条約とカリブ地域:小規模島嶼国の軍縮政治について

    ショーナ=ケイ・リチャーズ

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    抄録

     核兵器禁止条約は、諸政府や国際機関、市民社会の巧みな連携による多年にわたる粘り強い活動と外交のもたらしたひとつの歴史的成果である。このことは、核保有国やその同盟国からの頑強な反対論があるなかで、下馬評に反して達成された。核禁条約の採択は、軍縮政治の領域における大多数の国家による反乱あるいは暴動のようなものだと一部ではみなされている。この大多数の国家の中には、英語圏であるカリブ共同体(CARICOM)の小規模島嶼国が含まれている。これらの国々は、国の規模やそれに伴う問題にもめげることなく、核禁条約の交渉を通じて声を上げ、積極的に行動した。これらの小規模島嶼国は、軍縮政治における言説を脱構築・再形成し、核兵器を禁止し悪の烙印を押す国際的な動きを自らの手に取り戻し前進させるうえで、その規模の小ささにも関わらず影響力を発揮した。核兵器をめぐる「人道イニシアチブ」の力を得てこれら小規模島嶼国が参加したことは、核軍縮に進展をもたらす新たな道筋を築くうえで、決意を持ったリーダーシップや透明性、包摂的な参加がカギを握っていることを示している。本稿は、より広範なラテンアメリカ・カリブ地域グループの一部を構成しているCARICOMの小規模島嶼国が、軍縮政治の現状に挑戦し核兵器禁止条約採択を導いた上での貢献について分析する。

  • 書評
  • 書評:マイケル・クレポン著『「核による平和」:軍備管理の勃興・退潮・再興』

    シャロン・スクワッソーニ

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