ジョン・B・ウォルフスタール、トビー・ダルトン
抄録
核兵器の役割は世界的に拡大しているが、特に東アジア地域とその周辺でその傾向が顕著である。この地域には4つの核保有国が存在するほか、複数の非核保有国が安全保障のために拡大核抑止に依存している。地域的、軍事的、地政学的な動向はすべて、意図的または偶発的な核兵器使用を通じて、核リスクの増大を指し示している。本稿の著者は、日本、韓国、中国、ロシア、アメリカの核政策と立場に関する専門家と協力し、1年間にわたる研究プロジェクトを主宰してきた。これらの取り組みの結果は本誌に掲載された一連の記事にまとめられており、プロジェクトの2人のリーダーである我々がその主要なテーマと結論を本稿で示す。
サミュエル・ザイツ、ローレン・スーキン
抄録
本論文は、東アジアにおける米同盟ネットワークにおける統合抑止の利益に関する戦略的理論を提唱する。まず、地域における核兵器の役割を評価し、東アジアにおける核政策に関する米国の戦略的思考の進化をたどった後、現代の地域核政策が直面する新たなリスクと課題について検討する。我々は、核兵器への過度の依存が米中緊張を悪化させ、特に米国において党派の分極的な政治が隆盛を極めている状況下では、同盟国の安心感を損なう可能性があると主張する。その上で、「統合抑止」という代替的な理論を提示し評価する。この理論は、核脅威の抑止において核兵器の中心的役割を後退させ、通常戦力による対抗能力の強化を優先するものだ。このアプローチを、現在の地域核抑止理論がもたらすエスカレーションと拘束(entrapment)のリスクとの関係で評価する。最後に、変化する地域核環境における米核戦略の含意について考察する。
向和歌奈
抄録
1945年に戦時の核兵器使用という悲劇を経験した日本ではあるが、その安全保障戦略においては、核兵器に大幅に依存する主要な国として位置付けられる。では、日本による核軍縮の推進にはどのような意味があるのだろうか。本稿は、日本の核政策において核抑止と核軍縮の優先順位を設定するにあたっての利点と欠点を整理し、いずれの政策を優先しても、常に利益衝突の可能性が存在することを再確認する。このため、日本は核軍縮へのコミットメントを示すための具体的な行動や措置を講じる必要がある。これには核保有国の核軍縮に向けた実際の動きと政策を支援することが含まれ、これにより核兵器の価値の低減に貢献することになる。本稿では、日本が米国の核政策の転換(核先行不使用政策への移行)に反対を示した事例を分析し、日本の行動が核軍縮に向けた適切な環境の形成を妨げ、その結果、日本の核軍縮へのコミットメントを損なう可能性があることを指摘したい。
チョン・ギョンジュ
抄録
北朝鮮が核能力を強化し、先制使用の意思を示している中、韓国・米国同盟は朝鮮半島の安定を維持するため、その抑止戦略を精緻化する必要がある。本稿は、3つの主要な要素の分析に基づき、北朝鮮の進化する脅威に対してより効果的かつ適応性の高い対応を可能にする柔軟なアプローチを提言する。その3つの要素とは、(1)大量報復と柔軟反応という対照的な抑止戦略の比較、(2)NATOの欧州戦域における経験から得られる政策上の教訓、(3)朝鮮半島の独自の戦略的動向、である。冷戦時代の欧州と現代の朝鮮半島は、限定的な核攻撃能力を持つ敵対勢力に対峙しつつ、エスカレーションを回避するという共通の課題を抱えている。この点で、柔軟反応は大量報復よりも適切な選択となる。さらに、中国やロシアとの衝突への水平的エスカレーションの可能性と、韓国の強力な通常戦力を統合する機会を組み合わせれば、柔軟な対応がより戦略的に連携された選択であるという議論が強化されることになる。韓国と米国の反応オプションの柔軟性を高めることで、韓米同盟は北朝鮮の核脅威に対する抑止力を強化できるだけではなく、広範な地域紛争への偶発的なエスカレーションのリスクを軽減することも可能となる。
キヤン・ニウ
抄録
本稿は、中国の国家安全保障政策における核兵器の役割の変遷を分析し、変化する国際情勢の中での一貫性・適応性・核リスクの相互作用に焦点を当てる。1964年の初の核実験以来、地政学的な変化にもかかわらず、中国は核兵器が防衛目的にのみに用いられると主張し続けてきた。しかし、安全保障上の事件や、地域的な核拡散、他の核保有国の政策変更によって形成された中国の脅威認識の変化は、その核兵器近代化のアプローチに関する議論に影響を与え、おそらくは中国の戦略的能力の著しい強化につながることであろう。本稿はまた、米中間の戦略的安定の動向にも言及し、核のエスカレーション、偶発的な衝突、軍備競争のリスクに焦点を当てる。この分析は、核をめぐる米中間の実質的な対話の欠如、相互の誤解の継続、効果的なリスク低減メカニズムの必要性を裏書きするものだ。本稿は結論として、東北アジアおよびそれを超える地域での核リスクの軽減のため、透明性の向上や、持続的な軍備管理協議、中国のコミットメントの再確認、危機予防・管理枠組みの構築を提言する。
ダニール・ジューコフ
抄録
ロシアの核兵器は、東北アジアの安全保障動向の文脈において、ロシアの国家安全保障にどのような役割を果たしているのか。また、ロシアの核兵器政策に関連する地域リスクはどのように管理すべきか。本稿は、ロシアの極東地域の核兵器の重要性が高まることで、東北アジアの主要なプレイヤーを結ぶ複雑な関係網において余分なリスクを生み出していると論じる。ロシアの極東地域には、同国の戦略的および非戦略的核兵器の相当な割合が配置されており、対ウクライナ戦争を受けてロシアの外交・安全保障政策における核兵器の役割が拡大する伴い、同地域の重要性はさらに高まる見通しとなっている。対ウクライナ戦争と米国に対する敵意の拡大の直接的な帰結として、ロシアは中国や北朝鮮との連携強化を追求し、地域内の米同盟国である日本と韓国からの脅威が増大していると認識する。一方、地域的な緊張が、長距離攻撃能力の拡散と結びついて、紛争と核のエスカレーションのリスクを悪化させている。これらのリスクを低減する解決策は、多国間軍備管理とリスク低減措置を通じて実現可能であり、本稿は、ロシア指導部がこれらの交渉に参加する場合、ロシアがそうした交渉をどの程度望むかを評価する。
アナスタシア・バラニコワ
抄録
近年における世界的な変化は東北アジアを例外とせず、地域全体、特に朝鮮半島における紛争の可能性を高めている。緊張が高まり、軍備増強と強硬な発言が伴う状況下で、朝鮮民主主義人民共和国が核兵器を使用する意図と準備態勢に関する疑問が浮上してきている。この疑問への答えを導くには、宣伝や情報戦の一環である公式声明を見るのではなく、同国の核戦略の分析を通じて行わねばならない。本稿は、北朝鮮の核ドクトリンとミサイル・核計画の動向の分析を基礎として、北朝鮮の真の核戦略とは何かを明確化することを試みる。また、地域的な変化がこの戦略に与える可能性のある影響についても検討する。
アグネス・ディアンドラ・バングール、ヤンドリー・クルニアワン
抄録
外交政策決定のプロセスは、国際的な動向と国内の利害が衝突する対立的な領域である。時として、国は大胆な方向転換を迫られ、一般的な傾向や既成の国民アイデンティティとは異なる決断を下さなければならない場合がある。オーストラリアがAUKUSに参加し、原子力潜水艦を取得するとの決定は、同国が長年維持してきた非核国家としてのアイデンティティゆえに、否定的な反応を招いた。本稿では、国際的な動向と国内の利害の関係を分析し、オーストラリア政府がAUKUSの枠組み下で原子力潜水艦を取得する際に考慮したと思われる要因を説明する。筆者らは、国際システム、(条約上の義務を含む)国際法、同盟の歴史と伝統、軍事能力と軍事産業複合体、および政党の利益といった要因の組み合わせが、国の外交政策の一般的な傾向や長年確立されたアイデンティティに反する不人気な決定を招く可能性があると論じる。
ヤロスラフ・クラスニー(長崎大学教員)
抄録
本稿は、国際人道法において戦闘員に適用される「過剰な傷害または不要な苦痛を禁止する原則」の解釈の変遷を分析するものである。従来は軍事的必要性の観点から理解されてきたこの原則は、長期的な、不可逆的で深刻な健康被害を重視する、効果に基づいた解釈へと規範的な変容を遂げてきた。本稿は、1868年のサンクトペテルブルク宣言から核兵器禁止条約までの発展をたどりながら、ベトナム戦争や、国際司法裁判所の核兵器に関する勧告的意見、国際赤十字委員会のSIrUSプロジェクトなど、重要な節目を取り上げる。法的文書、司法判断、影響を受けた戦闘員の証言を素材として、軍事的優位性と苦痛のバランスが人道的な制約の方向へと決定的に傾いてきていると本稿では論じる。正式に法制化されてはいないものの、この変容は、戦闘の有用性よりも健康への影響を優先する軍縮諸条約に反映されている。本稿は、人道的な軍縮の台頭によって、「不要な苦痛」の原則が、軍事的必要性でもって正当化できない長期的な健康影響を与える兵器を禁止するものとますます解釈されるようになってきていると結論づける。こうした傾向は、新たな技術が現れるにつれてさらに顕著になってくるであろう。
エマニュエル・メートル
抄録
核兵器禁止条約は、採択から8年が経過した現在も、核不拡散・軍縮体制全体において重要な役割を果たす動的な条約として位置づけられている。締約国会議が3回開催された後、同条約は作業部会や各作業分野に関する報告書を通じてその制度化を進めているところだ。さらに、加盟国は2022年にウィーンで採択された行動計画の実施を公約しており、特に、積極的義務(被害者援護と環境修復)、条約の普遍化、検証問題に焦点を当てている。しかし、戦略的環境の変化と、核保有国とその同盟国による条約への継続的な反対によって、条約の短期的な成果は抑制され、条約がグローバルな核秩序を形成する枠組みの正式な要素として認められる可能性を低下させている。
アントン・ブランルント、アルベルト・ウェックマン、ポール・ルントベルク
抄録
本稿は、安全保障研究においてしばしば見落とされがちな、核拡散に対する世論の役割について検討するものである。スウェーデンの2022年の世論調査を活用し、ポスト物質主義的な価値観が核拡散に対する態度に与える影響を考察する。定量分析の結果、ポスト物質主義的な価値観と核拡散支持との間には有意な負の相関が認められた。伝統的な政治的立場(左翼-右翼の軸で測られるもの)がこのような態度を主に決定するという通説に疑問を投げかけるものである。我々の研究成果によれば、ポスト物質主義的な価値観と文化的アイデンティティが、旧来からの政治的立場よりも核拡散に関する世論形成に大きな影響を与える可能性が示唆される。本研究は、核政策に関する広範な議論において、今後の戦略を正統化する上で世論が重要であると強調することで、核政策に関する広範な言説に貢献している。グローバルな緊張が高まる中、国際安全保障論議における公共の価値観の役割を強調し、政策アプローチを再評価するよう本稿は主張する。これらの問題に関する一般の態度を形成する要因を慎重に検討することが不可欠だ。なぜなら、将来の核拡散と戦略を正当化するには、究極的には世論の承認いかんにかかっているからである。
クリスチャン・ハリジャント
抄録
本稿は、国際規範・フレーミング・リスク化に関する研究動向を撚り合わせて、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)が核兵器禁止条約をめぐって反核兵器規範を確立するために用いたフレーミングの手法を分析するものである。反核兵器規範は、核兵器に関連するすべての活動を禁止することで、既存の核兵器非使用規範を超えようとするものだ。「リスク化」を通じて、問題は「リスク」としての認識に転換され、その危険性は、存在的な脅威というよりも、即時性ではなく将来的なものとして特徴づけられることになる。リスクは根絶できず、管理するしかない。リスクの管理は、対象物自体へと内向きに方向付けること、例えばその対象物の強靭性を強化する形で実行される。社会運動理論のフレーム分析を用いることで、規範形成、形式化、カスケードの3段階におけるICANの診断的・予後的・動機付けのフレーミングを分析すると、ICANが核兵器の危険性をどのように描こうとしているか、そして、その提案する解決策を「リスク化」の一形態であると表現しようとしていることが明らかになる。また、フレーミングのターゲット層がICANの診断的・予後的フレーミングを大きく規定する一方、動機付けのフレーミングは、ICANの提案する集合的な行動を正当化すべく、現在のグローバルな動向に依存していることを本稿は明らかにした。
クリストファー・フェレーロ
抄録
核兵器は道徳的なものであろうか? 現代の核兵器禁止運動はそうではないと主張し、核兵器を抑止の手段として認めるとしても、その使用にはタブーが存在するという見方が一般的である。しかし、過去25年間の議論を見れば、内集団の政治的アイデンティティが、核兵器の保有だけでなく、その先行使用でさえも支持する傾向を示している。一方、組織化された宗教団体が核を倫理面からどう捉えているかについては、研究が進んでいない。ロシア正教会は、ロシアの核兵器は神聖で正当なものであると主張している。同教会は、核武装は道徳的であると考える内集団として、宗教政治的な文明を提唱している。これは、他の地域の正教徒の立場を反映しているのだろうか? 本稿は、スウェーデンにおける正教徒の多様なサンプルを対象とした調査の結果を提示する。独立変数としての正統派キリスト教は、核兵器が道徳的でないという見方を支持する。しかし、政治的アイデンティティが正教徒の視点に対する緩和的な変数として機能することも示している。正教徒は政治的な内集団アイデンティティの影響から免れることができない。それでもなお正統派キリスト教は、核兵器反対規範の推進における未開拓の資源として機能するようだ。
ジュリアン・スペンサー=チャーチル、ナシール・メフムード
抄録
軍備管理に懐疑的な立場の人々は、敵対的な競争関係では軍備管理が不可能であるか、紛争が解決されている対立状況では不要であると主張する。筆者ら、南アジアの作戦展開地域における訓練警報、移動禁止区域、訓練基準に関する原則宣言、事故通知、および試験禁止モラトリアムを含む5つの軍備管理措置を提案する。これらの5つの軍備管理措置の有効性を検証するため、2022年3月9日に発生したインドのブラモス巡航ミサイルのパキスタンへの誤発射/不注意による発射事件にこれらの措置を適用することを試みる。次に、南アジアにおける過去の軍備管理の動向と現在の動向を調査し、現在の政治的雰囲気が将来の合意の可能性に与える影響を分析する。さらに、南アジアにおける核抑止理論と核使用リスク(偶然または不注意によるものを除く)との関連性を分析する。
トレバー・フィンドレー