長崎大学 国際学術雑誌『平和と核軍縮』
Taylor & Francis出版

Journal for
Peace and Nuclear
Disarmament
(J-PAND)
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第7巻1号(2024年6月発行)
特集1:グローバル核政治における「不可逆性」の問題(パートII:事例研究)
特集2:北東アジアにおける核使用リスクの削減(NU-NEA)プロジェクト

 
※ 目次と記事の原文は こちら から

目次と抄録

  • グローバル核政治における「不可逆性」の問題(パートII:事例研究)
  • 特集序文:核軍備管理と軍縮における不可逆性:経験的知見

    ハッサン・エルバフティミー

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    抄録

     核の不可逆性をめぐるこの特集第二弾では、概念的な問題から経験的な問題へと焦点を移す。南アフリカ、カザフスタン、朝鮮民主主義人民共和国、米ソ(米ロ)における軍備管理・軍縮の取組みを検討することで、不可逆性と関連した力学が実際にはどのように作用したのかを検討することをめざす。本稿は、軍備管理と軍縮における不可逆性の問題に関連した最新の研究動向をまず概説し、経験的知見を不可逆性の実践に発展させていくうえで取るべきアプローチについて考察する。最後に、本特集号の各論文から浮かび上がってきたいくつかのテーマについて考える。

  • 北朝鮮核兵器計画抑制に「停止措置」は効果的か

    マット・コルダ、エリアナ・ジョンズ

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    抄録

     本稿は、過去30年間における朝鮮半島非核化の取組みに関連して「不可逆性」の概念を検討する。この期間において最も影響力のあった米国、韓国、北朝鮮のアプローチを対象とする。北朝鮮核計画を抑制する試みは、技術的凍結や政治的なモラトリアム(一時停止措置)といった「停止措置」として特徴づけられてきたが、これらの措置には永続的な効果がなかった。本稿は、これらの停止措置の持続可能性の妨げになるシステム的な障壁について検討を加える。とりわけ、目標や用語の定義、実行する措置の順序をめぐる意見の相違、それに、国内政治が困難に陥った際に推進力を維持することの難しさについて論じる。そのうえで、北朝鮮における「不可逆的」な軍縮を前進させるためにこれらのタイプの措置にどの程度の実現可能性があるのかについて考える。

  • 核軍備管理における不可逆性:米ソ・米ロ軍備管理プロセスからの教訓

    エイミー・F・ウルフ

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    抄録

     米国とソ連(ロシア連邦)は、配備核兵器数の削減を規定した複数の軍備管理条約に署名してきた。これら条約は、許容された数を上回る核兵器を廃棄するプロセスを規制する複雑な技術的手続きを提示している。この手続きでは、ミサイルやその発射機を物理的に破壊し、条約が効力を持っている間はこれら兵器の廃棄を各当事国が反転させることができないようにすることが求められる。この複雑な手続きによって、廃棄プロセスと核兵器の削減プロセスの両者で必要とされるように、条約遵守の検証を条約当事国が行うことができるようになる。しかしながら、ほとんどの条約では、その数が条約の求める範囲内に収まってさえいれば、条約が効力を持っている間にも、各当事国があらたな兵器を製造・配備することが可能なようになっている。さらに、条約が失効すれば、さらに戦力を追加したり、それまでの削減傾向を反転させたりすることもできる。このようにして、規定された削減を実行するための不可逆的な手続きを条約が義務付けていたとしても、その結果が恒久的に不可逆なものであるかどうかは保証されていない。両当事国ともに、安全保障環境に関する評価が変われば、能力を再建することも可能である。このように、軍備管理諸協定で法制化された法的義務や技術的手続きよりも、核政策を抑制する政治的コミットメントの方が、軍縮の長期的な不可逆性を確実にするうえではより重要であるかもしれない。

  • 軌道を維持する:核軍縮の不可逆性に南アフリカの事例がもたらす教訓

    ジョエリエン・プレトリアス

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    抄録

     核軍縮の「不可逆性」を概念化するには、核軍縮を歴史的な「瞬間」としてではなく歴史的な「プロセス」として考える方がよい。筆者は「経路依存性」の視点を南アジアのケースにあてはめて検討する。核軍縮の形成期には、歴史的な偶発性や岐路によってもたらされた「機会の窓」を利用するために、意図的な物語が用いられた。これによって南アフリカの政策立案者たちは軍縮の軌道を敷き、この経路の第一歩を踏み出すことができたのである。決定や行動、発表のタイミングと順序が、この重要な局面においてプロセスを反転させる可能性もあったアクターの行動を固定化する上で、重要な役割を果たした。軍縮の軌道を維持するという選択の背景には費用便益計算と規範的な考えがあり、結果として一つの均衡点にたどり着いた。この点は、南アフリカの政策立案者にとって核軍縮の不可逆性をめぐる限定的な理解を反映したものであった。すなわち、核分裂性物質の利用を非軍事化し、それを国際保障措置の下に置けばよい、とする考えである。これが南アフリカの高濃縮ウランの現在の状況である。高濃縮ウランを保有せず、ウラン濃縮の権利を放棄するといった、不可逆性をめぐる広義の理解を南アフリカが採用するには、核保有国による核軍縮に向けたより広範な動きの中で、同様の取組みが「調整」されていることが必要となるだろう。

  • カザフスタンの不可逆な軍縮

    トグツァン・カセノワ

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    抄録

     カザフスタンは、不可逆的な軍縮に関連して興味深く重要な実例を示している。ソ連が崩壊した際、カザフスタン国内には旧ソ連の1000発以上の核弾頭、数十機の重爆撃機、100発以上の大陸間弾道ミサイルが残され、世界で4番目に大きい核戦力を継承することとなった。カザフスタンに残された旧ソ連の兵器の法的地位は1994年3月まで決まらなかった。このカザフスタン・ロシア間の協定によって、これら兵器は、カザフスタンに一時的に置かれたロシア連邦の所有物という位置づけが決定されたのである。カザフスタンは、兵器や運搬手段に加えて、数十トンの核物質や、セミパラチンスクの旧ソ連核実験場を含む核施設を管理下に収めていた。カザフスタンは、旧ソ連の核兵器だけではなく、核物質と核兵器関連インフラをも放棄する決定を下した。同時に、平和目的で核技術を開発することにも同国は熱心であった。世界で最大のウラン資源産出国であり、(ウラン濃縮と核燃料再処理以外の)核燃料サイクル能力の拡大を継続し、原子力発電の導入を予定している。したがって、カザフスタンの事例をよく検討してみる必要がある。ある国の核軍縮が「不可逆」であるとは何を意味するのであろうか? 国際社会は、カザフスタンの原子力部門が発達しており、旧ソ連の核兵器継承に関する記録が十分残されていないにも関わらず、なぜ同国に核兵器が存在しないと自信をもって言えるのであろうか?

  • 北東アジアにおける核使用リスクの削減(NU-NEA)プロジェクト
  • 特集序文:北東アジアにおける核兵器使用リスクの低減

    シャタビシャ・シェティー

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    抄録

     本稿は、ノーチラス研究所、長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)、核不拡散・軍縮のためのアジア太平洋リーダーシップネットワーク(APLN)、北東アジアの平和と安全保障に関するパネル(PSNA)による共同研究をまとめたものである。この共同研究は、核兵器の先行使用につながりうる経路を確定・分析し、核兵器使用のもたらす被害や健康影響を定量的に推計することによって、北東アジアでの紛争における核兵器使用のケースについて検討を加えたものだ。本稿はまた、国際的な専門家による論考によって共同研究最終年の分析を記述し、相互の脅威低減(構造的リスク低減)、シナリオ内リスクの管理(状況的リスク低減)の形を通じて、核兵器使用シナリオが生起する余地をそもそも狭くしていくための勧告も行う。

  • 核兵器使用後状況の政治的考察

    ラビア・アクタール

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    抄録

     核保有国の存在や領土紛争、高まる地政学的緊張のために、国際情勢、とりわけ北東アジア情勢は激動の中にあると言われる。本稿は、こうした現実を踏まえ、北東アジアで仮に核兵器が使用された場合にそれがどんな政治的影響を与えることになるのかを検討する。想定されるパワーの移行、反核集団の進化する役割、安全保障政策への広範な影響について詳細に検討する。プラスの影響、マイナスの影響、複雑な帰結を含む、核兵器使用後のシナリオについてもさらに探求していく。本稿は、壊滅的な核使用を回避するために、軍備管理と紛争解決に関する実質的な対話が必要不可欠であるとの提言を政策決定者に対して行う。本稿は全体としてみれば、北東アジアにおいて核兵器がもたらす多面的な問題を包括的に分析し、より安全なグローバル環境を生み出すための貴重な洞察を提示するものである。最近の動向を見れば、軍備管理の仕組みが崩壊し、不拡散体制の危機が高まっていることがわかる。本稿はまた、諸国が脆弱性のバランスに変化を加えようとして、核抑止依存のダイナミズムを生み、新興技術の戦略的利用を進めようとしている状況についても分析を加える。

  • 東アジアの同盟ジレンマ:拡大核抑止のリスクを市民はどう認識しているか

    ローレン・スーキン、ソ・ウヒョク

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    抄録

     東アジアの安全保障環境が急速に変化する中、地域のアクターは「核の不安」が高まっていることを感じている。米国の同盟国・パートナーの市民の間には核の威嚇と核拡散リスクの高まりへの懸念があり、東アジアにおける米国の外交政策にも重大な影響を与えている。そこで本稿は、東アジアにおける「核の不安」をもたらすものは何であるかを問うことにしたい。また、米国はどうすればこの問題を最も効果的に解決しうるであろうか? 我々は、同盟国間に存在する「見捨てられ」と「巻き込まれ」のダイナミズムの中にこの問題を位置づける。また、東アジアに独特の安全保障構造である「ハブ・アンド・スポークス」型との関連も考慮に入れる。この地域における核政策に対して「核の不安」が与える影響をよりよく理解するために、オーストラリア・インドネシア・日本・韓国・台湾という東アジアの米国の5つの同盟国・パートナーにおいて2023年6月に行った独自調査の結果を分析する。調査結果は、地域アクター間での核の「巻き込まれ」と「見捨てられ」の力学の存在と、自国核開発の可能性に対するさまざまな立場を示唆している。加えて本稿では、東アジアの市民が、この地域における「核の不安」を米国が軽減するためにどのような政策的オプションを取りうるのかについて評価することを試みる。

  • 北東アジアにおける核兵器・通常兵器の絡み合い:危機管理相互運用性の必要性

    ベンジャミン・ザラ

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    抄録

     核戦力と通常戦力の絡み合いに伴う危険性が、ますます懸念の対象となってきた。本稿では、北東アジアにおける核・通常戦力の絡み合いのもたらすリスクの高まりと、それが核軍拡競争のあらたな時代をもたらしつつあることについて検討する。起こりつつある核危機のリスクをよりよく管理するために、抑止力による威嚇に重きを置いている現在の政策に沿うように、保証政策をより強調すべきであるということを論じる。北東アジアで今後数年の間にそのような危機が起きる可能性が非常に高いことを踏まえ、核兵器を保有する同盟国と戦略的非核兵器を保有する同盟国間で、私が「危機管理相互運用性」と名付けているものが必要であることを主張する。こうした相互運用性は、危機にあってシグナルを送るという難しい任務が、核戦力と通常戦略が絡み合っている同盟の存在によってさらに複雑化することがないようにすることを目的としたものだ。

  • 「核先行不使用」によって米中の核リスクは低減できる

    アダム・マウント

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    抄録

     「核先行不使用」を宣言することで米中間の核危機に大幅に影響が与えられるとは考えにくい。中国の核戦力増強によって、核先行不使用という中国側の宣言政策の意義と持続性に対して疑問が呈されるようになった状況の下では、米国が同種の宣言をなすことは考えられない。しかし、核先行不使用は依然として、両国間のリスク低減に重要な役割を果たしうる。第一に、両国ともに、核の先行使用への依存を低減する実際的計画や態勢を取ることができる。第二に、核先行不使用に関する米中二国間協議によって、それぞれの国における核兵器の役割に関する有意義な対話を交わすことが可能だろう。核先行不使用に関しては、議論を展開するよりも、まずは実践、対話を行うことの方が、よい結果を導くかもしれない。

  • 「行動に焦点を当てた軍備管理」と東アジア

    ウルリッヒ・クーン、ヘザー・ウィリアムズ

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    抄録

     米中間の政治的・軍事的緊張が高まっていることから、核兵器や特定の新興技術に関する革新的な軍備管理のアプローチによって中国やその他の主体を巻き込むことが求められている。本稿は、米中間での「行動に焦点を当てた軍備管理」(Behavioral Arms Control、BAC)枠組みを提案し、東アジア関係安定化の一助とするものである。軍備管理分野における近年の「行動論的転回」と、信頼醸成措置の領域における歴史的な事例を本稿は前提としている。そのうえで、エスカレーションにつながりうる「能力」よりも「行動」に焦点を当てることでリスクを低減する非公式な取り組みの重要性を示唆する。核使用と核戦争を回避するため、BACは、核保有・非保有に関わらずさまざまな主体を巻き込み、複数の軍事的領域における責任ある行動の処方箋を示す。本稿は、BAC概念と「責任」について特に論じたのち、中国を関与させるための3つの原則を示し、BAC枠組みの下で可能な軍備管理措置についていくつか提案する。

  • その他
  • 国際法における核使用威嚇の問題(1):法的枠組み

    アンナ・フッド、モニーク・コルミエ

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    抄録

     核兵器使用の威嚇に関する国際法の扱いは明確でない。そこで本稿では、国際法における核使用威嚇に対する既存の禁止条項を概観し、国際法の範囲と付託内容について説明する。そのため本稿では、一国単独による消極的安全保証、(核兵器禁止条約や非核兵器地帯の諸条約・議定書、1994年のブダペスト覚書などの)国際協定における核兵器使用威嚇の禁止条項、jus ad bellum の体制における核使用威嚇に関するルール、jus in bello の体制における核使用威嚇に関するルールを検討する。核使用威嚇に関するこれら国際法の適用に関して意見が対立している場合、我々はそれら見解の相違やその重要性について説明し、既存の法的枠組みに欠落がある場合はそれを指摘する。本稿は核使用威嚇の合法性に関する2部構成の論文の1本目である。

  • 国際法における核使用威嚇の問題(2):法の適用

    アンナ・フッド、モニーク・コルミエ

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    抄録

     核時代を通じて、諸国はさまざまな形の核使用威嚇を行ってきた。しかし、そうした威嚇が国際法の下で合法なのか違法なのかについては明確にされていない。本稿は2部構成の論文の2本目であり、この特定の国際法のルールを過去の核使用威嚇の事例に適用できるかどうかを考える。とりわけ、国家間の戦争を規制する国際法である「jus ad bellum」の下で特定の威嚇の合法性について考え、そののちに、紛争時における敵対行為を規制する「jus in bello」を前提にこうした威嚇の事例を検討する。本稿を通じて筆者は、「jus ad bellum」「jus in bello」を実際の核使用威嚇に適用する際の複雑さや欠陥について指摘する。

  • 核兵器は実際どの程度有用か?:ウクライナ戦争を事例に

    トム・ザウアー

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    抄録

     核兵器に関する議論は抽象的な概念を基礎としてきた。ウクライナでの戦争は、長年展開されてきたこうした抽象的理論を検証する好個の事例であろう。本稿の問いは次のようにまとめられる。すなわち、ウクライナでの戦争における核兵器の影響はどのようなものであり、核兵器の有用性一般に関して示唆するところは何だろうか? この問いはさらに3つの問いに分割することができる。今回のウクライナ戦争が、核抑止理論、「核の責任」理論、「核の強制」理論にそれぞれ示唆するところは何であろうか。本稿では、それぞれの理論を説明したのち、実際の事実とそれらを照らし合わせて検証する。これらの問いに対する答えは、核兵器の将来にとって重要な意味を持つであろう。全体としてみれば、核兵器の有用性に関して将来は明るくない。国家の死活的な利益に対する攻撃への抑止は別としても、核兵器は、(潜在的)コストがかかるばかりで、多くの利益をもたらしそうにない。また、国家の死活的な利益に対する攻撃への抑止力としてみても、どの程度抑止が効くかは明確でない。

  • イラン核抑止戦略の背景要因:先進的方法論を用いて

    モハマド・エスラミ

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    抄録

     イラン核計画の複雑な性格は、ウラン濃縮能力の拡大と、核兵器開発への意欲の否定が同時に存在していることに由来する。したがって、イランの抑止政策の性格を厳密に検討し、核抑止戦略の採択を阻んでいる要因を確かめることが必要だ。本稿は次の2点をめざす。第一に、体系的文献レビュー(SLR)とデルフィ技法(Delphi technique)を用いて、イラン核政策の細部を検討し、核兵器開発を防いでいる13の要素を同定する。第二に、デマテル技法(DEMATEL technique)を用いて、イラン核政策の背景にある個別要因とその要因間の因果関係を検討する。オリジナルなデータを用いて行った本研究は、シーア派の宗教が果たす重要な役割と、イランの戦争・抑止戦略を決定する上で指導者のイデオロギーが果たす役割が重要であることを論じる。

  • 革新的保障措置の定量的研究:国際原子力機関による保証措置査察における技術革新の影響

    ゾーイ・N・ガステラム

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    抄録

     あらたな原子力施設が稼働し、諸国が保障措置協定を新規に締結、あるいは更新するにつれ、原子力保障措置活動の範囲と幅は拡大している。国際原子力機関(IAEA)は、限られた資源の中で増大する保障措置の需要に応えるために技術的・政策的革新を採用している。本研究は、査察の「人・日数」指標を用いながら顕著な保障措置の革新的技術を分析することで、保障措置査察活動に対してそれらが与える影響について検討する。査察活動に対する最も重大な影響は、「統合保障措置」と呼ばれる最適化された保障措置から生じるものである。「統合保障措置」は、すべての核物質が平和的利用に供されているとIAEAが結論したとき(これを「広範な結論」と呼ぶ)に適用されるものである。「統合保障措置」の査察活動に対する影響は、より多くの国家に関して「広範な結論」を導く取り組みを正当化しうるものだ。

  • 朝鮮の非核化と米中の戦略的対立

    ユ・ジフン、エリック・フレンチ

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    抄録

     本稿は、米中間の戦略的な対立の激化が、朝鮮半島非核化に向けた地域での取り組みをいかに難しくしているかについて論じるものである。とりわけ、相対的利得や戦略的な不信、国内政治、強圧的交渉が、朝鮮半島非核化をめぐる米中協力をますます難しくしている状況について検討する。この複雑な安全保障環境を米国・韓国・日本がいかに乗り切ることができるのかについても本稿では考える。

  • 核兵器禁止条約:その長所・短所・現状

    ジャン・クラズノ、エリザベス・スゼリ

    原文へ

    抄録

     本稿は、核兵器禁止条約の長所、短所、他の協定に対する関係、最新の状況について分析する。我々が今日直面している2つの大きな紛争に核の脅威が影を投げかけ、核軍縮実行の緊急性を指し示している。その2つの紛争とは、ひとつは核保有国イスラエルとのより直接的な対立関係に入りつつあるイランへの核拡散の危険、もうひとつは、核保有国ロシアを刺激しないようにしつつウクライナに対する微妙な線を引きながら支援を行うという集団的で慎重な行動である。我々は、核兵器使用あるいは使用の威嚇の問題を人道主義や環境の枠組みで語ることが、市民社会と締約国の両方を条約策定プロセスに引き込む規範的触媒の役割を果たし、それが人々に動機を与え説得的なものであったと論じる。また、核のタブーが損なわれつつあるが、抑止理論にはきわめて欠陥が多いということも論じる。本稿は、筆者らがそれぞれ出席した、2022年にウィーンで開催された第1回締約国会合と2023年末にニューヨークで開催された第2回会合の最新状況、さらには、会期間作業部会の最新状況についても織り込んでいる。

  • 核兵器はこの地球に必要ない

    メリッサ・パーク

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    抄録

     2024年1月、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の事務局長にあらたに選ばれたメリッサ・パークが初めて広島・長崎を訪問し、被爆者や公人、教育関係者、若者などと懇談した。このコメンタリーで著者(パーク)は、日本での活動を振り返り、非核世界を目指す数十年に及ぶ闘いにおける被爆者の不可欠の役割について述べる。著者は、画期的な核兵器禁止条約(2017年)に署名し、核の傘という誤った理論を前提とした「核の傘」の考え方から脱却するよう日本政府に訴えた。また、過去の恐ろしい出来事が繰り返されることのないように、核廃絶を掲げ被爆者の声を中心に据えながら、核兵器に関する教育が必要であることを強調した。「核兵器はこの地球に必要ない。我々ができるのはそれを廃棄することだけ。ともに核兵器を廃絶しよう」と著者は呼びかけている。

  • 書評
  • 書評:狂った(MADな)発想:核の大惨事の運命を受け入れることがそれを避ける唯一の道

    ティモシー・ブライアー

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編集体制

編集長
  • 吉田文彦(長崎大学、RECNAセンター長)
編集長補佐
  • 山口響(長崎大学、特定准教授)
副編集長
  • 鈴木達治郎(長崎大学、RECNA教授)
  • 河合公明(長崎大学、RECNA副センター長)
  • 樋川和子(長崎大学、RECNA副センター長)
  • 中村桂子(長崎大学、RECNA准教授)
編集委員
  • 藤原帰一(千葉大学)
  • 西崎文子(東京大学名誉教授)
  • 目加田説子(中央大学)
  • ピーター・ヘイズ(ノーチラス研究所、米国)
  • M・V・ラマナ(ブリティッシュ・コロンビア大学、カナダ)
  • ジャック・ハイマンズ(南カリフォルニア大学、米国)
  • ランディ・ライデル(元国連高官、米国)
  • レベッカ・ジョンソン(アクロニム研究所、英国)
  • イム・マンスン(韓国高等科学技術院[KAIST])
  • 趙通[ショウ・ツウ](カーネギー国際平和財団[北京])
  • ニック・リッチー(ヨーク大学、英国)
アドバイザー
  • セルジオ・ドゥアルテ(パグウォッシュ会議、ブラジル)
  • フランク・フォンヒッペル(プリンストン大学、米国)
  • ジア・ミアン(プリンストン大学、米国)
  • ジョージ・パーコビッチ(カーネギー国際平和財団、米国)
  • アリソン・マクファーレン(ブリティッシュ・コロンビア大学、カナダ)
  • ゲーツ・ノイネック(ドイツ科学者連盟)
  • アレクセイ・アルバトフ(世界経済国際関係研究所、ロシア)
  • ケビン・クレメンツ(戸田記念国際平和研究所)
  • ジャルガルサイハン・エンクサイハン(元国連大使、モンゴル)
  • 沈丁立[シェン・ディンリ](復旦大学、中国)
  • 文正仁[ムン・ジョンイン](延世大学、韓国)
  • 黒澤満(大阪大学名誉教授)