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第5巻2号(2022年12月発行)

  • 南アジアにおける核のトリレンマ:中国・インド・パキスタン
  • 序文:中国・インド・パキスタン核トリレンマとリスク低減措置の必要性

    ラメシュ・タクール、シャタビシャ・シェティ、W・P・S・シドゥ

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    抄録

     南アジアにおける地政学的な緊張は、国境での接続、大きな領土紛争、戦争の歴史、政治的動乱や不安定といった特徴を持つ。このダイナミズムは、中国・インド・パキスタンの核の関係、すなわち核の「トリレンマ」によってさらに複雑化する。このトリレンマの形成に寄与するものは、この三国間の軍事的な動向、脅威認識、同盟・敵対・抑止の関係である。南アジアで高まるリスクとそれがアジア太平洋地域に与える影響を軽減するために、「核不拡散・軍縮を求めるアジア太平洋リーダーシップネットワーク」と「戸田平和研究所」は、この中国・インド・パキスタンの核のトリレンマを概観する研究プロジェクトを共同で立ち上げた。『平和と核軍縮』誌のこの特集号は、同プロジェクトからの要請で提出された9本の論文を収録したものである。各論文は、二国間・三国間・多国間の変動要因を検討し、実践的な核リスク低減や危機安定化、信頼醸成措置と核の抑制体制を追求して、トリレンマのさまざまな側面を取り扱い、さらに、国家間関係を正常化し民衆間のつながりを提供するために緊張を緩和し紛争を解決するメカニズムと機会を明らかにするものである。

  • 南アジアの核の風景を理解する:その複雑性と可能性

    マンプリート・セティ

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    抄録

     南アジアの核の闘技場は、きわめて高いレベルの複雑性を特徴とする。プレイヤーの数が多く、抑止確立の方法に関する思考に余裕がなく、戦略的な連鎖へと展開していく核の二国間関係があり、核の問題が通常兵器や宇宙、サイバーの領域と相互に接続し、軍事能力の格差があり、未解決の領土紛争が歴史的な敵対感情をこじらせ、地域の分断がイデオロギーや宗教、文明の問題を悪化させ、これらすべてのことがきわめて複雑な状況を生み出してしまっている。結果として生まれるこの地域の核のダイナミズムは、危機と軍備管理における不安定性につながる危険を大いに有する。本稿は、この地域の核問題に対処するために、パキスタン・インド間、中国・インド間の核問題を、紛争の要因、共通性と差異、これらのことが核戦力に与える影響という3つの点から検討していく。さらに、これらの理解を基礎にして、これに伴う危険に対処するための政策的勧告を行う。

  • 事態に変化なし? 多極化する南アジア核抑止のゆくえ

    トビー・ダルトン

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    抄録

     一部の学者は、「南アジアでは核の連鎖反応が起きている」とか「抑止のトリレンマが生まれている」などと評している。この地域には核兵器を保有する3つの国があるが、核抑止が明確に成立している二国間関係はインド・パキスタンというひとつの組み合わせしかない。両国はこの間のいくつかの軍事的危機において核抑止の関係を保とうとしてきたが、近年の中印国境紛争において核兵器の存在は希薄であった。この地域を多極的な核抑止の関係へと押し進める要因はどんなものだろうか? 主要な変数は、中印関係と、インド・中国のそれぞれの国家安全保障の信条体系において核兵器がより重みを増す程度である。地域の地政学が変化し、国内政治の国家主義的傾向が強まり、技術競争が激しさを増し、危機がエスカレートする懸念が高まるなど、そのような方向へと押し進める傾向がすでにいくらか現れている。南アジアの現状を多極的な核抑止関係へと傾けることになるかもしれない2つの要素は、核・非核のカップリングを生み出すようなインド・中国のそれぞれで同時並行的に起きる核態勢の変化と、地政学的な同盟がより敵対的なブロックへと凝固していく傾向である。核をめぐるあらたな信頼醸成措置を通じて抑止の多極化を防ぐことは、この地域の利害や権力、機構がばらばらであることから、困難を抱えている。核をめぐる既存の信頼醸成措置を強化することが政治的にはより実現可能な手段かもしれない。しかし、そのような措置がなかったとしても、中国・インド・パキスタンは、共通の資源競争や宇宙における危険な行動、さまざまな危機や緊急事態を管理するあらたな措置を通じて、地域における予測可能性を高め、紛争の潜在的原因を和らげることができよう。

  • 中国・インド・パキスタン核トリレンマを管理する:新たな核時代における核の安定性の確保

    ラケシュ・スード

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    抄録

     核時代の始まりは冷戦の始まりと時を同じくしていた。2つの覇権国が核の超大国の地位を有していた二極世界の政治が核秩序を形成していた。あるレベルにおいてはこれはひとつの成功だと見えるかもしれない。というのも、この状況は75年に及ぶ「核のタブー」を生み出しそれを維持してきたからだ。しかし、世界は変化した。戦略的安定性を核の安定性と実際上等価のものとし、二国間核軍備管理の条件を生み出してきた「核の対等性」や「相互の脆弱性」といった観念は、核をめぐる秩序が多極化する非対称世界へと移り変わりつつある。このために、旧来からの核軍備管理メカニズムが崩壊し、「核のタブー」が侵食されてきているのではないかとの懸念が高まっている。米国とソ連との間には領土紛争はなかった。かわりに、この両国間の角逐は代理戦争という形態をとった。今日、核のライバル関係は隣国との間で生じている。その紛争は国家の主権問題と結びついている。さらに、核の二国間関係は「トリレンマ」と核をめぐる連鎖反応へと道を譲っている。より使用可能な核兵器、核・非核両用システム、ミサイル防衛と超音速兵器を伴う攻撃・防御スパイラルの再来、核という要素を絡ませる攻撃的なサイバー・宇宙能力の強化は、軍備管理と核の安定性をめぐってあらたな見方を取ることを我々に迫る。中国・インド・パキスタンの核のトリレンマにおいては、相互不信のサイクルを破り、予期しないエスカレーションへとつながりかねない認識違いや計算違いのリスクを減じるために、こうしたあらたな政治的現実を認識したうえで政策提言がなされる必要がある。

  • 地政学的な「錯綜状況」と中国・インド・パキスタンの核トリレンマ

    楼春豪(ロウ・チュンハオ)

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    抄録

     南アジアの地政学的な状況は、慢性的な印パ対立や、冷却化した中印関係、米中競争の激化に表れているように、錯綜した傾向を呈している。中国は印パ対立に巻き込まれることを望んでいないが、中国ファクターが印パの相互作用をある程度までは規定していることも否定し得ない事実である。米国は地域外の大国ではあるが、地域の問題に関与してきた長い歴史をもつ。中国とインド、パキスタンがすべて核保有国であることを考えれば、この核の連鎖に対してこうした地政学的な傾向がもつ影響を分析することがきわめて重要になる。本稿は、米国は中国との戦略的競争に焦点を当て、米中関係は、あらたな均衡に達する前に厳しい問題を抱えることになるだろうと論じる。中印関係も競争的かつ不安定になってきており、二国間関係安定の古い枠組みは崩れてきている。国家形成をめぐるイデオロギー上の対立や、極度に矛盾を抱えた安全保障上の観念、この地域における地政学的優勢をめぐる闘いはすべて、印パ関係の対立激化につながっている。戦略的抑止のツールとして機能する核兵器は関連当事者が大規模戦争に巻き込まれることを抑え、中国は共通的かつ協調的な安全保障概念を強く推奨しているが、地政学的な錯綜状況がこの地域の核の状況に重大な影響をもつことだろう。本稿はまた、この相互作用を制御するための提言も行う。あらゆる関連主体は、信頼醸成措置を強化し、核問題での対話を行い、危機管理メカニズムを改善することで、この地域のセキュリティのジレンマを乗り越え、平和と安定を維持するための努力を払わねばならない。

  • 南アジアにおける核トリレンマの対外的・国内的要因:中国・インド・パキスタン

    ユアン・ジンドン

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    抄録

     本稿は、中国・インド・パキスタンの関わった南アジアの核のトリレンマの対外的・国内的要因について論じる。この三国間の複雑な二者関係・三者関係を解きほぐし、この核のダイナミズムの差異と同質性を明らかにする。また、中印紛争およびインド・パキスタン紛争の国内的ダイナミズムを検討し、ナショナリズムや世論、軍民関係のような国内要因が、継続的な紛争や新たなライバル関係の登場、長期にわたる地域外からの介入によって特徴づけられるこの地域における核のリスクをいかにして緩和し、あるいは悪化させるのかについて分析する。本稿は、これらの分析を基にして、中国・インド・パキスタンの間の核のトリレンマという中心的テーマに取り組む。その際、①不安定化の要因、②紛争と核使用へのエスカレーションのリスク、③信頼醸成措置や核リスク低減措置の追求と履行などを通じた事態の抑制とリスク低減の見通しについて検討を加える。

  • インド・パキスタン、パキスタン・中国、中国・インドのダイナミズム:国内政治と二国間関係の連関について

    サディア・タスレーム

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    抄録

     さまざまな意味において、外交政策は国内政治の延長である。しかし、インド・パキスタン・中国という政治的にも文化的にも異なっている三国が構成する二国間関係において、国内政治と外交政策がどのように連関しているかを説明するメタ理論は存在しない。本稿では、この三国それぞれの現代国内政治の傾向が二国間関係の将来にどのような影響を与えるのかを検討する。この目的のために、二国間関係のそれぞれの場合において最も意味を持つとみられる国内政治上の要因を明らかにする。そのうえで、それぞれの二国間関係にそれら要因がどのような影響を与えるのか、インド・パキスタン、パキスタン・中国、中国・インドのそれぞれの関係の将来にとってそれが意味するものは何かを考える。言説の傾向と政策決定を少数のエリートが支配している状況では、「国のアイデンティティ」という解釈の余地の大きい観念が頭をもたげてくると筆者は論じる。「国のアイデンティティ」は、(エリートがそれを望む際に)外交政策を形成しその方向を変える上での柔軟性を与える。他方で、外交政策が、大衆からの強力な支持を基盤とした主流の政治政党によって方向を与えられた「国のアイデンティティ」概念に依存している状況では、選挙の圧力にきわめて弱くなり、大きな変化の余地を狭めてしまうことにもなる。

  • 中国・インド・パキスタンの核の三角関係:アジアの安全保障にとって望ましい選択とは

    サルマン・バシール

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    抄録

     アジア太平洋は、グローバルな権力政治のあらたな場となっている。中国の台頭を封じ込めるために、インドは米国と手を結んで、中国の「地経済的」な拡張に「地政学的」な対応をみせている。「海洋的な次元」が、中印間・印パ間の「大陸」での競争に複雑性を加え、この地域での核の不安定性に新たなリスクを与えている。この競争を責任ある形で管理することがあらたなテーマとして浮上している。インドの核近代化・軍備近代化は、世界的な地位を求める動機が背景にある。米印防衛パートナーシップは中印関係の悪化につながり、印パ間の脆弱な戦略バランスをかき乱している。中印間で核紛争が起きる可能性は低いが、南アジアでの核のリスクは高い。通常兵器の不均衡とインドの好戦的態度は、パキスタンをして、信頼性のある「全方位的な」最小限核抑止ドクトリンの策定へと向かわせてしまっている。

  • 中国・インド・パキスタンの核トリレンマと偶発的戦争

    プラカーシュ・メノン

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    抄録

     本稿は、世界全体の核兵器の枠組みの中に位置づけられる核のトリレンマの状況を規定する中国・インド・パキスタン間の地政学的な対立に焦点を当てる。中印関係と印パ関係を核が覆っている状況の下で、領土争いは紛争の種を宿している。この2つの二国間関係は構造的には別物だが連関してもいる。核ドクトリンを形成する信条体系は、中印に共通したものがある。しかし、印パ関係にそうしたものはない。核が覆っている状況の下で、通常戦争という未開拓の領域を占めている危険が政治的に認識されている。2つの二国間関係における核戦争の大きな危険は、小さく始まって制御不能な事態に拡大しかねない紛争のエスカレーションを抑える能力の不在の中に隠されている。本稿は、クラウゼビッツによるエスカレーションのモデルを援用して、この重大な問題を検討する。したがって、政策的な処方箋は、いまだ試されたことのない「核のしきい」という境界線の問題に向けられ、警戒レベルの低減に関連したものとなる。世界的な「核先行不使用条約」案が提示されているが、核戦争の危険性が世界的に認識され、政治指導者の手を縛るようにならないと実現不可能だ。これは、最初の核兵器が使用されたら何が起きるのかという問いに答えることのできないさまざまな形の非現実的な核戦略という拘束から指導者たちを解き放つうえで、必須であろう。

  • 南アジアにおける戦略的リスク管理

    フェロズ・ハッサン・カーン

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    抄録

     中国・インド・パキスタン三者関係の戦略的安定性は脆い。このうち2つの二国間関係はイデオロギーや領土紛争、権力争いをめぐる長年の紛争に見舞われている。それぞれの二国間関係ごとに紛争の要因は異なっているが、協調的安全保障の枠組みをともに望みその歴史を持つことが、南アジアにおける将来的な戦略的リスクを管理する基礎となろう。この戦略的三者関係のそれぞれの当事国が互いに絡み合った安全保障のジレンマに直面する一方、不安定化のあらたな源が戦略的トリレンマを複雑化させている。近年の印パ間(2019年)と中印間(2020年)の軍事危機は、将来の紛争において多領域的に危機がエスカレートしていく可能性を垣間見させた。戦略的リスクが、紛争におけるエスカレーションの動態と、技術的な失敗や事故による不慮の状況によって増大している。本稿は戦略的リスクを3点挙げる。第一に、相手の意図や能力を誤って評価することで、危険な行動や対抗行動が導かれやすい。第二に、運搬手段が核・非核両方にまたがっていることから、それぞれの国のドクトリンがあいまい化し、相互のコミュニケーションが細り、軍事危機の頻度が増す中で、偶発的戦争に陥ってしまう可能性が高まる。第三に、精密な軍事システムが新興技術と融合することで、領域横断的な抑止能力の構築が可能となり、危機の進行の中で意思決定者がより大きなリスクを冒す多様なオプションが与えられることになる。本稿は、中印パ三国がトラック1・トラック2の両レベルにおいて多国間・二国間の戦略的対話を行うことを通じてあらたな戦略的リスク低減策を検討し、南アジアの戦略的環境に見合った「戦略的リスク低減センター」を立ち上げることを提案する。これらのセンターは、すべての過去及び将来の協定をめぐる情報センターとして機能し、誤った解釈や悲劇的な事故を予防する結節点となるであろう。

  • その他
  • デジタル時代における反実仮想的思考と核リスク:不確実性・複雑性・機会・人間の心理の役割

    ジェイムズ・ジョンソン

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    抄録

     新興技術は核戦争の可能性を増大させるだろうか? 新興技術が核兵器と結びつく数多くのパターンがある中で、現在の状況を単純に評価したり、それを近視眼的に将来に投影してみたり、外挿してみたりすることにとどまらない形で将来を想像してみる批判的思考を持つことが、政策決定者にとっての中心的な仕事であらねばならない。本稿は、「将来的な反実仮想」の概念にのっとって、核交戦の将来的な可能性を検討するための創造的ではあるが現実的なシナリオを構築する。そのために本稿では、核兵器やリスク分析、戦争遂行、単線的思考をめぐる通念に挑戦する上で反実仮想的シナリオが果たす決定的役割に焦点を当てる。世界政治における不確実性や認知バイアス、基本的な不確実性の役割を強調するなかで、本稿は、偶発的・事故的な核戦争に関する研究に貢献することもめざす。

  • 説明されないミッション:米国の拡大核抑止における日本の役割の変化

    河合公明

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    抄録

     日本の安全保障政策は質的な変化を遂げつつあるようにみえる。しかし、政策決定者は、そのような変化に関する十分な説明を国民に行っていない。米国の拡大核抑止を前提とした日本の安全保障政策における質的な変化とは何だろうか? 本稿では、この問いに答えるために、米国の拡大核抑止と核抑止概念に関する日本の政策決定者の理解と、日本の防衛政策の変化に関して分析を加える。次に、冷戦期と冷戦後の国会審議の内容を比較すると、米国の拡大核抑止と核抑止概念に関する政策決定者の理解はそれほど変わっていないが、政策決定者の認識において、日本の安全保障環境が抑止型から対応型に変化してきたこと了解される。米国の拡大核抑止を前提とした日本の政策は、単なる依存の段階から、米国との関与の段階に移行してきているのである。これは米国の拡大核抑止を前提とした日本の安全保障政策の質的な変容である。この移行の意味するところは、核兵器の使用そのものが政策問題になりうるということであるが、この問題はいまだに検討の俎上にない。本稿は最後に、拡大核抑止において日本が米国に関与することで、日本にとっての米国の拡大核抑止の強化に資することになると論じる。また、そうした強化に伴って生じる日本の安全保障上の課題についても論じる。

  • CTBT国際監視制度の水中音響ネットワーク:その利用・活用について

    スティーブン・J・ギボンズ

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    抄録

     包括的核実験禁止条約(CTBT)の遵守を検証する国際監視制度(IMS)の水中音響ネットワークは、ハイドロフォンを並べた基地局6カ所と、T波を記録する陸上の地震波観測所5カ所から成っている。本稿では、これら基地の構成とデータの利用状況を詳述してこのネットワークの包括的な概観を試みる。2014年以来、オーストラリア・英国・米国の領土内にあるすべての基地局(ハイドロフォン列の基地局4カ所、T波観測所1カ所)からのデータは自由に利用できるようになっている。このデータは公開で利用可能なソフトウェアと最小限のコードだけをもって取得・表示できることを本稿では示し、どの地震観測所が非公開のIMS基地局の限定的な代替として利用可能なのかを詳述する。また、水中音響データのもっとも基本的な特徴が、オープンなソフトウェアを通じていかに利用可能であるかを示し、水中音響シグナル及び転換された地震波シグナルの解析のためにこのデータを大いに活用すべきであると論じる。また、2017年の北朝鮮核実験からのシグナルを、地震波及び水中音響データを用いて示す。ハイドロフォン基地の「HA01」「HA08」「HA10」「HA11」においては、CTBTシステム外部でのリアルタイム探知及び情報処理は制限されているものの、公開データを用いた最適化手続きによって、すべての基地局からのデータを利用する可能性を追求することができるようになる。

  • 被害者に人間の顔を与える:中東非核兵器地帯と、「その他の大量破壊兵器」を含める歴史的必然性

    ツェンカイ・トン

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    抄録

     世界には5つの非核兵器地帯が存在するが、現在まだ協議されている「中東地帯」は「その他の大量破壊兵器(WMD)」を含めた初の非核兵器地帯となることが想定されている。本稿は、その他のWMDをこの「中東地帯」に含めることの歴史的必然性について検討する。まず、核・化学・生物兵器が人間と環境にいかに破壊的かつ永続的な被害を与えるのかを強調する。次に、非核兵器地帯とその他のWMDのない地帯について概観し、これらの概念を取り巻く歴史的文脈を理解することの重要性を強調する。本稿は、これらの概念を確立したのち、WMDの使用やその帰結に関する事例研究を参照することによって、非核兵器地帯諸条約にその他のWMDを加えることの歴史的必然性を論じる。

  • 朝鮮民主主義人民共和国と包括的核実験禁止条約(CTBT):核実験モラトリアムの後に来るものは?

    キヤン・ニウ、キム・ヘユン、ザニヤ・ムカテイ

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    抄録

     本稿は、包括的核実験禁止条約(CTBT)署名開放25年にあたって、朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)による自発的な核実験モラトリアムの機会をとらえ、核実験場解体に関するカザフスタンの経験を参照し、DPRKをCTBTに加入させるための3点の政策的勧告を行う。すなわち、第一に、国際社会は、対DPRK制裁の緩和を今後検討する理由として、DPRKによるCTBT署名という要素を考慮に入れねばならない。第二に、国際社会は、最終的なDPRKによるCTBT署名に向けた第一歩として、同国がCTBTに関する国連決議に賛成するよう推奨しなくてはならない。第三に、国際社会とCTBT機構(CTBTO)準備委員会は、DPRKをCTBTOの訓練やワークショップに招いて信頼を構築せねばならない。総じていえば、これらの行動によって、CTBTの発効が近づくだけではなく、DPRKとの関与をめぐる現在の行き詰まりを打開する可能性も生まれる。

  • 核不拡散・軍備管理の「社会的検証」概念の再検討:透明性を求めて

    サラ・アル=サイード

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    抄録

     この数十年、非国家主体が情報通信技術を利用して、本稿で問題にする核問題も含めたさまざまなテーマに関して市民や政府に対して情報提供するケースが増えてきた。このため、さらなる透明性が確保され、条約に違反した核拡散や核戦力拡大などの危険から免れた安全な場所に世界は変わっていくだろうとの印象が強まっている。実際のところ、「社会的検証」、すなわち、条約の検証に市民社会を関与させる方式は、第二次世界大戦後の科学者運動によって歓迎されてきた。本稿では、今日提唱されている「社会的検証」のやり方は、もともと提案されていたものからの概念上の乖離がみられると論じる。今日の取り組みは、米国や西側の覇権的な利害に奉仕する国々の協働によってなされており、核の危険を抑えることとは無縁なものになってしまっている。それは社会的検証を非政治化した概念とする見方と親和的だ。本稿では、社会的検証の理論及び実践の進化を概観し、現状の固定化にさらに資するのではない形での社会的検証概念を再考するための議論を呼びかけるものである。

  • イランによるロシアへのドローン供給と変容するウクライナ戦争のダイナミズム

    モハマド・エスラミ

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    抄録

     ウクライナ戦争は、近代戦におけるドローンの重要性を浮かび上がらせた。2022年2月、ロシアはウクライナを侵攻したが、ロシアの予想に反して戦争は長期化し苦戦を強いられている。ウクライナは、無人戦闘飛行体(UCAV)を利用して、ロシアからの攻撃に耐え、戦争の初期段階においてはロシア軍を破壊しさえした。ロシアは戦争の無人化技術分野において弱点をさらし、UCAV戦力の拡大を緊急に迫られている。2022年夏、イランは数百機の軍事用ドローンをロシアに提供し、ドローン能力の欠如を補おうとした。本稿は、ウクライナ戦争における戦闘ドローンの役割を明らかにすると同時に、イランのUCAVがウクライナ戦争のダイナミズムにどのような影響を与えているのかを分析する。

  • 書評
  • 書評:ヴィピン・ナラン著『核兵器の追求:核拡散の戦略』

    ポルコディ・ガネシュパンディアン

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